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かーびぃのメモ帳

球体の生物が日々感じたことをつぶやくよ!

飛行機雲に彩られた空がいつのまにか物悲しく見えるようになった感性の変化を老化とは呼びたくないのだ

 どうもかーびぃです。

 

 荒井由実(現:松任谷由実)の代表曲に「ひこうき雲」というものがある。近年では宮崎駿監督作品「風立ちぬ」に使用されていたことからも若年層に対してそれなりに知名度のある歌ではないかと思う。ちなみにぼくの父親はこの曲が好きで、昔からカラオケに行けばよく歌っていた。サビの盛り上がりも美しいが、それ以上に特徴的なのは、儚い命を懸命に生き、そして死んでいった病気の青年の姿が克明に、かつ、虚無感にも似た透明感を強調して描かれた歌詞にあるといえる。非常に泣ける曲だ。

 後から付け加えられたそのものズバリなマクラもなかなかに雑でそれはそれで味になるやもしれぬ、などとゲスいことを考えてみたり。

 

 さっそくですが、テキレボ5シーズン、3位のこの本についての紹介、および感想を述べていきたいと思う。

「ヴェイパートレイル」著:凪野 基(灰青)

(通読性:18、宇宙感:17、残響度:17、嗜好:7、闇度:C 合計:62点)

 凪野氏による短編集である。クラフト紙を思わせる薄茶色を基調とした表紙がとても好きだ。

 この短編集には4つの短編が収録されているが、いずれもどことなくファンタジックな雰囲気が漂う世界観を擁しており、ファンタジー短編集ということになるのだとは思うが、見方を変えればSFとも読めるし、これはぼくが提唱した「フューチャーファンタジー(近未来系ファンタジーだがSFとは明らかに趣を異にするもの)」ではないか?というものもあった。どれもこれも、生命というものの存在、概念を問いかけてくるようなもので、ぼくの中では、まさに荒井由実の「ひこうき雲」を想起させる、これこそまさしく、「ヴェイパートレイル」というタイトルを冠するにふさわしい短編集である。

 以下、各短編について。

 「いざよいの夏」は、ヴァイオリンを軸として描かれる、少年と少女の青春ストーリー、というとやや誤解が生じそうなところもあるが、おおざっぱにネタバレを避けるくらいであればこれくらいの表現がちょうどよいと思われる。主人公の少年の感情の動きが非常に鮮明かつ巧妙で、物語への強力な引き込み線になっている。また、ヴァイオリンの曲としてその主軸を「情熱大陸」にしたのは非常に憎い。弾きたいと思わせられる上に情景が美しい。これが「G線上のアリア」とかになってしまうと物語がのったりしてしまうのだが、この分量でこの起伏をつけるのにぴったりな選曲であったといえる。巻頭作として強い引き込みを持つしとても美しい短編であった。

 「ピートの葬送」は、どこか星新一の世界を思わせるような、妙ちきりんな機械化が進行した世界で起こる、ペットロボットの葬儀とそれを見守る職員(彼もロボット)、そしてペットの家族とのやりとりが繰り広げられる。情景もセリフ回しもどこか星新一ワールドを漂わせながら、しかし本家のように冷笑するブラックユーモアにはもっていかず、あくまでいのちを問いかけ、登場人物に優しい目線を降り注いでいるのが凪野氏の作風なのだなあと思わせるような短編。

 「雲曳きの配達人」は、とある世界の飛行機乗りの話。実はこの話が読みたくて買ってきたものである。かーびぃはひこうきがだいすきなんぢゃ。戦闘機乗りのアイドルとして、文字通り身を粉にして働いたものの、負傷して前線から遠ざかった街で療養させられているメグと、曲芸師でありながら、郵便公社所属のパイロットとして定期便を運航するルイの、ボーイ・ミーツ・ガール(ボーイでもガールでもない感じではあるが)とでも言えばいいだろうか。とにかく、こう、かーびぃ氏の力がたりなくて言語化できないのだがとても「よい」空気が流れているのがよい。とくに最後の場面の二人のやりとりはもう素晴らしい以外の言葉がでない。ああ、腐女子ってこういうとき尊いって言葉つかうのかなあって思ったくらい。

 「宇宙船クジラ号」、これもまたフューチャーファンタジーかSFか、みたいなジャンルの短編である。ノアの箱舟を思わせるストーリーと、クジラが暢気に宇宙を泳いでいるのを想像してしまい、さしずめBGMはジュディマリの「くじら12号」だった。設定がシリアスなのに、文章全体から感じるこののほほん感は一体なんなんだ、と思うくらいほんわかした短編。この中で一番好きかも。

 

 素朴な短編集ではあるが、すべてが粒ぞろいでどこかあたたかい。凪野氏の作風なのだとぼくはそう思う。

 

 次回は2017最「ごうがふかいな」にノミネート確実のすごい「ごうがふかいな」なあの短編集をご紹介するよ!