おもちくんのメモ帳

球体の生物が日々感じたことをつぶやくよ!

遥かなる蒼を泳ぐか投げるか

 どうもおもちくんです。

 

 物悲しい季節であるが、文フリ京都は次回の方が近くなってしまった。

 さて、ここで3位の作品を紹介していきたいと思う。

 

 抒情的なロックバンド、9mm Parabellum Bulletに「スタンドバイミー」という曲がある。9ミリには珍しいからりとした曲調に、ふたりだけの世界が展開されているという抒情的にも、表層的にもなりすぎない絶妙な世界観を保つ、隠れた名曲であるように思う。

 9ミリのマクラといえば……そう、このお方である。

 

「ヘヴンリーブルー」著:咲祈(モラトリアムシェルタ)

文体:34 空間:35 (半客観分野:69)

感覚:37 GF:34 (主観分野:71)

闇度:0.612 レート:7.12(E)

総合点:133.492(文フリ京都2シーズン3位)

 

 レート7以上を誇るまんまる双璧の片翼にして、ここまでの登場シーズンをすべて首位で駆け抜け、ここまで数々の記録を打ち立ててきた「師匠」こと咲祈氏であるが、今回も3位に輝き見事記事化となった。しかも、素点は140点を超えており、今ステージ最高評点を獲得している。レートがなければ先回と同じく首位になっていたであろう。

 透明で、どこまでも潜っていけそうな蒼をたたえた空が、この作品の舞台だ。風の力を自在に操ることのできる少年たちが、曲芸によって世に出ていく世界を描いたファンタジー小説。天才であるがゆえに孤独な少年と、天才の登場により芸の舞台から去ることを余儀なくされた、少年だった青年のボーイミーツボーイを、咲祈氏独特のフレーズ感と研ぎ澄まされた描写で克明に描いていく。

 これまで、ぼくは氏の様々な作品に触れてきた。それらはみな圧倒的な世界観を持ち、読者を強烈に引き込むインパクトを持ちながら、華やかにそれでいて儚く、美しくそれでいて芯のあるものばかりで、その中心にある独自のイデオロギー、いわば「咲祈イズム」のようなものが非常に強い軸として、どの作品にも通底して描かれていた。ぼくはそれこそが氏の「ごうがふかいな」であることを信じて疑わなかった。

 しかし、この作品は、その「咲祈イズム」を前面に押し出さず、あくまで、少年と青年の交歓、そして彼らを取り巻いている苛烈な環境の描写に専念されている。それゆえにここまでの作品よりも分量が少ないが、根っからの咲祈ファンであるところのぼくからすると特異でありインパクトが大きいものでもあった。この「ごうがふかいな」を脱して、氏はさらなる物語の深淵を覗き込んでしまったのではないかと思う。

 氏の作品の唯一、大きな特徴としての「咲祈イズム」があったのだが、それを鞘に納めるという手法が現れたところから、師匠の作品はさらに巨大な自由を得たのではないかと思う。いうなれば、中島敦の「名人伝」における「不射之射」であろう。本当に書きたいことをきっちり書くことのできる能力だけでなく、時には書かないことが何よりも表現になるのだ、ということを教えてくれる、そんな作品だった。

 

 さて、次は、ラブホアンソロの書き手にもなる、今回のごうがふかいな賞のあの作品である。こうご期待。