日本ごうがふかいな協会広報

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流れ流れて行き着く先はおもちの国の王子様

 どうもおもちくんです。

 さて、先日尼崎文学だらけにいってきたばっかりだが、文フリ京都シーズンも進んだので、ここで選外まとめ記事をひとつ書いていきたいと思う。激戦が繰り広げられた末に記事化ラインを落ちていった良作も多い。

 

「babel 創刊号」著:真銅孝 ほか

 先日紹介した「白鴉」と同じくらい完成度が高いが、純文学方面でも比較的ライトな文体に統一されているという点で、合同誌として非常に読みやすかったと思う。小説では秋尾茉里氏の「あさがおの花」がかなりの完成度だった。デイケアセンターに通う女性を彼女自身の視点から描いているのだが、彼女自身が抱えている問題を、その没入感を損なわないまま描き出していくという手法の鮮やかさと巧さが抜きんでて光っていて、他の作品もかなりの完成度であったにもかかわらずこの作品だけが印象に残っている。

 

「自転車で関東一周してみた ~十三日間の記録~」著:今田ずんばあらず(ドジョウ街道宿場町)(レート:B)

 ずんばニキこと今田ずんばあらず氏の、自転車で十三日かけて関東を一周してみた時のレポート。タイトル通りである。ただし、これは新装版。この体験が「イリエの情景」を書く発端になったと巻末のあとがきで語られている。当時彼は二十歳の若者で、大学生だったそうだが、非常にすっきりとした、そのなかで読ませられる旅行記になっていて、常々思っていたことだが新聞記者やライターのような記事を書くことに関して氏はかなり適性があるように思う。自分が見てきたことや感じたことを平易な言葉で語りつつ、それをどのようにすれば読者にストレートに伝わるのかというのを、もちろん努力もされているのだろうが、それ以上に天賦のセンスでつかみ取っているような気がする。「イリエ」の原点にもなるが、それ以上に素朴で得難いレポートがこの本には収められている。レポート好きな人はぜひお求めになるとよいと思う。

 

「アドレナリン・リライト」著:遠藤ヒツジ(羊目舎)

 吉増剛造の「アドレナリン」を「誤訳」した小説と、そのおまけを収めた作品。熱量と文体の重厚さ、そして文章を読み込んでいくごとに広がっていく宇宙。ポエトリーリーディング界でも活躍している氏ならではの、本の中に収めた言葉を読むことによって次々と解放していくような、摩訶不思議な空間にいざなわれる錯覚を覚えた。とにかく文章に込められている濃いエナジーを感じ取れる、熱い作品だった。

 

「名前のない光の粒について」著:伴美砂都(つばめ綺譚社)(レート:B)

 この作品から急激に評点バトルが激化した。つばめ綺譚社のライターツートップの一角、伴氏による中編小説。主人公の女性の荒廃した生活と問題だらけの人間関係と、それを埋め合わせるように過食を繰り返す様子が非常にひりひりする。以前、つばめ綺譚社のふたりの作風をピッチャーに例えたことがあったが、それでいえばこの作品こそ、伴美砂都のまっすぐな高速ストレートであろう。主人公の女性視点から終始淡々と描かれているそのまなざしは、軽妙な文体と裏腹に深く、重い。

 

「神域のあけぼし 試製第1巻」著:夕凪悠弥(オービタルガーデン)

 夕凪氏の超大長編の1巻。遠い未来、科学技術が限界まで発展した人間たちと、その惑星で独自の魔法文明を築き上げてきたファンタジー帝国が邂逅するというドラマチックな導入と、これからどうなっていくのか、という期待がどんどんと高まっていく1巻。この巻では帝国の武力では歯が立たなかった「魔龍」と事故によって帝国沖に停泊することになった惑星降下艦「あけぼし」のし烈な戦いが収められている。どことなく「戦国自衛隊」のような、時代トリップ無双もののような雰囲気を漂わせながら、その幕引きはかなり意外な展開になるあたりの、非常に高い構成力と、設定からしてカロリー過多に陥りがちな叙述もライトノベル文体、かつ読者の没入を妨げないような形で行うあたり、相当な研鑽があったものと推察できる。この調子でどこまで続くのか気になるが、同じ大長編に挑戦する人間として応援していきたいし、非常に参考になる一冊でもあった。

 

 現状で5冊の選外作品にまとめてコメントを行った。いずれも非常に高い完成度を誇り、評点もかなり高いのだが上位にいまひとつ及ばなかった。今シーズンは非常に上位争いが厳しい。残った作品についても、近日中にコメントしていきたい。