世界のどこかで誰かが死んでも自分には関係のないはなしになる、少なくともその知らせがない限りは
どうも、ひざのうらはやおです。
2019年を振り返る、というテーマが多い。去年も確かに同じような流れで2018年を振り返ったので、ぼくも同じように2019年を振り返りたいと思う。
ただし諸事情により、同人活動のみに限らないことについても言及するので、そういうものととらえていただきたい。そもそも後述するようにぼくは今年については半年弱しか活動をしていない。よって、昨年よりもだいぶ創作に関してのことは少なくなるものと思われる。例によって何を書くのかこれを書いている時点では決めていない。そういうかたちでこのメモ帳は書かれている。
思えばこうして年末にゆっくり記事を書くことが出来るのも、年末年始を比較的長めにとることのできる仕事だからなのである。これは単に勤めているところだけの差ではあるが、それでも大きいはずだ。
ぼくにとって、2019年というのは厄年であったというほかにない。年初から予想だにしない困難な仕事を任され、プライベートでは決定的に近いほどの危機を迎え、それでもなお、というよりはだからこそ創作に邁進した結果、ぼくは自分が最も信頼していた存在を自ら破壊し、喪失した。そしてそのショックと創作手法の絶対性から同人活動を無期限で休止することを宣言し、令和最初の文学フリマでいったんの幕を下ろすこととなった。
そのため、ぼくが「正規の同人活動期間で」発表した同人誌等の作品および参加したイベントは下記のように、昨年の約半分ほどしかない。並べてみる。
・2月20日開催
・新刊として「おもちくんメソッド ~創作同人活動に行き詰ったひとのための、明日を生き抜くためのヒント~ 同人編」を頒布(初動14部を記録)
・総頒布数 20部
広島という街は思っていたよりも見どころに溢れていて面白かった。ここまでの流れから自らの体験をまとめた私的な事例発表的メソッド本が流行っていたので、そのながれに乗るべくクソメソッド本という銘で上記作品を新刊として出した。当日はそのメソッド本界のパイオニアである紗那教授の隣だったこともありこの「おもちくんメソッド」はかなり驚異的な伸びを見せた。初動14部は第五短編集である「幻石」を超える歴代5位の記録で、小説ではない作品としては当然ながらトップになる。ぼくがぼくであるために続けていることを書くということは、ある意味でここから先にぼく自身に降りかかることの予言的なところもあった。もちろん当時はそんなことは全く気付かなかったわけであるが。
・3月17日開催
・休止宣言後最初のイベント
・総頒布数 16部
にゃんしー氏主催の、今までの同人誌即売会とはちょっと趣を異にしているイベント。にゃんしー氏といえば「尼崎文学だらけ」の主催でもあり、非商業作品というものに対してぼくとどこか共鳴するような考え方をするようなひとだったので、このイベントにも日帰りの弾丸ではあったが参加した。また、3月11日に「かれ」を失い、その後このメモ帳で休止宣言を行った際に唯一の関西遠征として関西勢のみなさんにしばしのお別れの場として参加する意味あいもあった。頒布数も相当ではあるが、結果的に多くの人と密度の濃い交流が出来た。また、後述する委託の案件についてもいろいろなお話をいただけて感謝しきりだったのと、ぼくは決してひとりではなかったのだということを思い知らされたような日だった。余談であるが、「〇(ゼロ)」の書き出しはこのイベントの行きの新幹線の中で泣きながら、文字通り必死の思いで書き上げている。このあたりのぼくが最も壊れていたのではないかと思う。
第8回Text-Revolutions(台東区 都立産業貿易センター)
・3月21日開催
・新刊「ヨコハマ”カオス”アンソロジー ジーク・ヨコハマ」を頒布(自ブース初動11部 全ブース合計約30部)
・総頒布数 48部
テキレボでは、独特の立ち位置を獲得しつつあると思っていた。前回の打ち上げの場で決まった、まさにテキレボによって完成されたアンソロジー「ジーク・ヨコハマ」をなんとか完成させた。1月時点で原稿はほとんど完成しており、2時間を超える座談会のページに苦慮しながら延々と編集するという作業が続いたのを今でも覚えている。この合同誌については実のところ自信しかなかった。確かにこの合同誌は偶然出来上がったものではあったものの、少なくとも今田ずんばあらず氏と転枝(ころえだ)氏に関しては、ぼくは随分前から合同誌を作ろうと画策していたので、たとえ偶然であろうともこの機を逃すはずはなかった。前年のシーズンレースの最高評点であった「心にいつも竜(ドラゴン)を」を読んでぼくはそのクオリティに圧倒されたが同時に合同誌を作り続けた人間として「悔しさ」を明確に感じたのは事実である。ぼくはぼくのいうところの「ここドラ」を作ることができなかった。作る前にその場とやる気を失ってしまったのだ。そういう意味の悔しさである。そんな中に降ってわいたのがこのヨコハマアンソロである。ぼくは仕掛け人として自分でも驚くくらいに巧妙に動いたと思う。こうしてこういう場だから書くけれども、少なくともこの合同誌に関しては偶然なんかではなく、必然的に存在するものであった。もう少し詳しいことを「〇」で述べようと思うのでこの辺にしておくが、だからほんとうのことをいえば、最後まで十全な状態で走り抜けたかった。いずれにしても、持ち込んだものの大部分が消えていったのも今回が初めてといってよく、非常にびっくりした。このイベントの帰り、浅草のサンマルクカフェで泣きながら絶対に戻ってくることを誓ったのも随分遠い記憶になってしまった。
おもしろ同人誌バザール7(港区 ベルサール六本木)
・4月6日開催
・セット頒布を行う
・総頒布数 13部
未知のイベントに参加しようと考えていたので、情報系同人誌即売会という今までとは別ジャンルのイベントにも参加することとなった。前述の「おもちくんメソッド」がそれにあたるとして参加したが、「ジーク・ヨコハマ」を売るつもりだったのに全然動かなかったことや一番動いたのが「煤煙~浦安八景~」だったのが驚きだったし、自分の読みの甘さと未知の領域を発見したことの喜びがあった。これに関してももう少し準備を出来る状況にあればと思ってはいるが、これはこれで致し方ないだろうなとも思っている。
・5月6日開催
・新刊「平成バッドエンド」および「ラブホテルアンソロジー 満室になる前に」を頒布(平成バッドエンド初動33部 満室になる前に初動18部)
・総頒布数 96部
休止前最後のイベントである。段ボール4個口、合計300部の頒布を行った超大規模搬入は大げさではなく大変だったが、やる価値はあったと思っている。これについては休止の際に思いを語ったりした。
houhounoteiyudetaro.hatenablog.com
ここで書いたとおり、ぼくは前述したテキレボの勢いと、今田ずんばあらず氏や転枝氏の勢いから考えるに、100部以上の頒布があるはずだと見込んだが、それはかなわなかった。これも結局のところぼく自身の力が及ばなかった結果であると書いたし、今でもそう思っている。100部という数は文芸系では非常に多いし、ひとつの区切りとなる数であるようにぼくは思う。それをひとつのイベントで達成するということはやはり何かの力を示せるということであるし、そして数が関係ないという思想とは別に、それもまたぼくの力の結果であると思っている。ここで書いた「存在しない読み手」という概念を吹っ切るのは難しい。ぼくも脱却できるとは到底思えない。しかし、しばらく創作というものを俯瞰的にいろいろ考えていった結果、ぼくはぼくにしか書けないものを探すことを最優先にするべきであると今は考えている。そうしたきっかけを作ってくれたのは、ここまでぼくと交流してくださったみなさんでもあるし、ただただ感謝するのみである。
ここまでの結果を同人誌ベースに並べ替えると、
・参加イベント数 5回
・発刊数 4冊
・総頒布数 193部(イベント平均 38.6部)
が2019年の公式な数字上の実績ということになる。もちろん、公式なと書くところからおわかりのように、実はここにはカウントされていないイベントや小説、同人誌がある。諸事情により、ぼくは下記を同人活動とは別のかたちとして行った。
・「HUB a nice D」に「浦安おすしパラダイス」名義で参加
・同イベントに新刊として「おもちくんメソッド 創作編」を出す(同時に今田ずんばあらず氏への委託も発表)
・中編小説「飛んで火に入る(〇版)」のカクヨム上での公開
それぞれリンク先に詳細を書いてあるのでそれをもって説明と代えさせていただく。
そういうわけで、現在はかつてとは全く異なるスタイルにはよるのだが、どうにか小説を書いている。事実として、書いてはいる。
そして、復帰についてのめども立ったので、先日「第29回文学フリマ東京」に付随する場でお知らせしたとおり、令和3年夏の復帰を目指して本格的に準備を行っているところである。最初のイベントは復帰宣言の記事でお伝えする。もっとも、そんな時期に参加募集を行っているようなイベントはこの時点では存在しない。なぜこの時期なのかというのも、その復帰宣言の記事でお伝えする予定だ。
また、復帰にあたり、以下の原稿を初稿完成させられることを条件としているが、ここでその進捗をお伝えしよう。
「〇(ゼロ)」 進捗率 85%
ぼくが活動を休止するきっかけになった「かれ」についてと、ぼくがここまで活動をしていく中で感じてきたことを作品とともに回顧していく。これは回顧録でもあり実質的なベストアルバムとなる予定である。現在カクヨムで初稿版を順次公開中である。
おかげさまでカクヨムに載せてあるぼくの作品のなかで最もPVがあるものになっている。現時点で20万字を突破しており、最終的には30万字に到達するおそれもあることから、これは上下巻に分けての発行となる予定である。一部欠番となっている部分は、諸事情によりカクヨムでの掲載を停止している部分である。完成したものには収録する予定であることを申し添える。
「現石(ゲンセキ)」 進捗率 35%
過去と対峙すべく作り替えられた、現存する鉱石をモチーフにした4つの短編と、オルタナティブとして追加される「琥珀」についての中編、つまり「飛んで火に入る」が追加されるものを予定している。「飛んで火に入る」とアクワマリンを冠した作品以外はほとんど書けていないので、主な原稿は来年になるのだろうと思う。過去作と対峙するというのはぼくにとって最もきついことのひとつなのかもしれない。思っていた以上に時間をかける必要があると感じている。
「令和イクリプス」改め「(仮)S/A」 進捗率 15%
創作スタイルの変更により「令和イクリプス」を執筆することが不可能と判断できたので、その代替として中編小説集「S/A」を出すことを考えている。これはある法則に従って書かれた小説をすべて収録するという画期的かつ実験的な試みである。これのつらいところはとにかく量を書く必要があるというところだ。現在、収録予定作は「(タイトル非公開)」(6稿完成済)「震える真珠」(初稿進捗20%)「くちびるに指を」(プロット進捗25%)「(仮)浦安ラプソディ」(プロット進捗5%)「(仮)S/A」(構想のみ)を予定している。いずれも法則の都合上少なくとも原稿用紙100枚程度を超える量になるので、最低でも600枚ほどのものをひとつにまとめる必要が生じている。これについては、とあるバンドのアルバムに着想を得たある手法を遣おうと考えている。すべてが仮であるため、これについては大幅なプロジェクト変更が予想されるが、まあそれはそれとして見守っていただければ幸いである。
総括の総括になるが、特に今年は多くの書き手やイベント主催などの同人界隈のひとたちに助けられ、その絆を感じさせられた1年だった。ぼくはずっとひとりで活動をしているのだと思っていた。もちろんそれは間違ってはいない。小説を書くのも、クソメソッド本を書くのも、編集するのも結局はぼくひとりだ。けれど、たとえばぼくがこのように休止することを知って真っ先に声をかけてくれたのが普段ライバル視していた今田ずんばあらず氏で、結局それがきっかけでかれにはぼくの代表作でもある「煤煙~浦安八景」と「おもちくんメソッド」を委託することになったり、同じくライバル視していた転枝氏にもツイキャスなどで紹介してもらったり、本になっていないものの感想をもらったりもしたわけで、そういったところで、ぼくは随分と身近な書き手たちに助けられてきた。そして、それらがきっかけでプライベートで遊びに行くようなひとたちが増えた。それは、ぼくが同人を今までは「仕事」のように思っていたのを解放した結果であるように思う。ぼくにとっては本業のみが「仕事」であって、同人創作は完全なプライベートであるということを決めた、そういう1年であったという印象が強い。ぼくはこの世界を仕事として考え、生き残ろうとしていくことをやめた。だから「かれ」が生き返ってくることはもうないだろう。ぼくはぼくとして、ひざのうらはやおとして、そして本業を正業とする人間としてこの世界を見つめ、あらたな小説を書いていくだろうと思う。けれどおそらく相対するみなさんのまえに映っているのは、きっとそれまでのぼくとなにひとつ変わらないように思えるのだろうし、そういう風に思っていただいて構わない。これはあくまでもぼく自身にしか影響しないことであり、ぼくの強迫観念にも似た無数の縛りのうちのいくつかが変化しただけに過ぎない。民法の改正より小さなはなしである。来年以降も売り子としてどこかのサークルを手伝ったり一般参加したりネット上に小説を発表したりぼくそっくりの文章を書く謎の書き手「まん・まるお」が登場するかもしれないが、そのときはよろしくお願いします。
それではよい2020年を。
おばいちゃ。