日本ごうがふかいな協会広報

日本ごうがふかいな協会の広報ブログです。

賢治うどんなんて初めてきいた

 どうもかーびぃです。

 どうも読む人が増えてきたようで、うれしいのは何よりなんだけれども、基本的には同人誌の批評というのは遊びのひとつで、ここではぼくの思ったこととかそういうのを普通に書いていくだけの雑記帳なので、特に過度な期待をしないでほしい。みなみけかよ。

 

 ということで、花巻市交流会館(花巻市)で行われたオールジャンル同人誌即売会+コスプレ撮影交流会の「はなけっと」に参加してきましたよ、というレポート。

 

 結論から言うと、おおむね満足であった。特に、地元を巻き込んで一緒に花巻を盛り上げたいという運営側の強くて熱い想いを感じられたイベントだったと思う。それなりに即売会に参加してはいるが、これほどまでに明確に地元を味方につけていたイベントで、この規模で行えるものはないし、中でも非常に独自で特異であるなと思った。

 

 オールジャンルであるにも関わらず、文芸系同人誌のブースが非常に多かった。これがひとつめの特異な部分である。オールジャンルというからには漫画やアクセサリーがほとんどで、小説など数えるほどしかないだろうと思っていたのだが、思っていた以上に小説サークルがあり、ぼく自身も特に肩身の狭い思いをすることがなかった。中には文フリ岩手でお会いした方もいて、とくに隣が文フリ岩手シーズンで首位となったジンボー氏だったのは奇遇としか言いようがない。

 また、会場に飲食スペースが用意されており(その代りブースは飲食禁止なのだが)、会場のすぐ外には東北のうまいもの的なものを売るキッチンカーが配備されていた。特に大船渡のホタテがまあうまいんです。ひとつぶ500円というこういう形態にしてはかなり良心的な価格で売られていて、ぼくも食べてみたんだけどうまい。次も来たら参加します!マジで。

 あと、会場ではDJが音楽をミックスしていたのだが、たぶん世代が近いのか、学生時代に流行ったものばかりでとても懐かしい感じがした。ただ音がちょっと大きかったなあ。かーびぃ氏は地声が非常に低いのであれだけ音が鳴らされると訪ねてきた人に声が伝わらなかったりするので、BGMとしてある程度の音を出したいという気持ちはわかるのだが、そのへんは事前にリハーサルなどで調整したうえでやっていただくなどして改善したほうがいいように思う。

 これらがはなけっとの特徴であり、また、そのような特徴から一般参加者の層もぼくが意識していたものとはだいぶ違っていたので、特別に対策を立てていった方が頒布数は稼げるのではないかと思ったのだが、そもそも想定外の頒布数だったので気にしなくてもいいのかなと思ったりもする。

 そう、思っていた以上に頒布数があった。上記のように特殊なイベントであったこと、また、花巻という今までで最も規模の小さい地域でのイベントであったことから、頒布数0も覚悟していたのだが(実は文フリ金沢で頒布数0を記録している)、実際は完配するものがでるほどで、そこそこ盛況だったというのと、見積もりが少し甘かったことを思い知らされた。あと、こちらの手違いでバスの時間を間違えてしまい、結果として花巻駅まで歩いて帰ったわけだが、なかなか面白い体験だった。非常に遠いので軽くなった荷物じゃなければいやになっていたと思う。だがそれ以上にこたえたのが、花巻駅が思った以上に小さく、休めるところが待合しかない(北上と同じ)だったところで、それが疲れた体にいちばん効いた気がする。北東北の鉄道規模を甘く見ていた。はなけっとの盛況っぷりがあったせいもあったと思う。

 公共交通機関の弱さ、これがはなけっと最大の弱みであると思われる。カタログの言葉などから、このイベントはどうも花巻市交流会館ありきのものであるみたいなので、もし次回以降があるとしても、会場が変わるということは考えにくい。だとするならば、最寄り駅まで2キロ以上あり(しかも列車は1時間に1本くらいしかこない)、バスも一日に数本しか走っていないとなると、車を使うのが最適解となるわけだが、肝心の駐車場を多く用意できないというのが弱みだ。東京から公共交通機関を使用して1泊2日の行程で参加するのであれば、北上に宿をとって、そこから決め打ちしてバスに乗り込むのがもっともスマートだろうと感じた。このバスは北上駅から出ており、北上は東北新幹線の停車駅である。付近にホテルも多いから、おそらく宿泊地として選ぶ人は多いのではないかと思う。駅はともかく、駅のすぐ近くに産業会館のような建物があり、とても気になったので今度は行ってみたい。

 

 ちなみに、花巻駅で食べた賢治うどんという名前の、山菜とおあげと卵だったかがのったうどんはおいしかったです。駅そば真骨頂って感じ。

 

 会場にも余裕があったし、次回はもっと参加者が増えてバスをチャーターできたりできるといいなあ、と思いました。現場からは以上です。

 

 余力があれば週末の読むお品書きでも書こうかなと思うけどいったんここで。

「第6回Text-Revolutions」で、「みんなのごうがふかいな展」を開催します。

 

 どうも、(株)ごうがふかいなホールディングス(以下GFHD)代表取締役社長のひざのうらはやおです。この記事では10月28日(土)に開催される文芸系同人誌即売会イベント「第6回Text-Revolutions」内で開催されるイベント内企画「みんなのごうがふかいな展」について、一般参加者用に参加の仕方を説明します。企画参加サークルのごうがふかいな本を効率よく集めたい!そもそもごうがふかいな展ってなに?というみなさんの疑問に答えられたらと思います。

 

 「ごうがふかいな」の定義や企画参加者用のレギュレーションについては、下記の記事をご覧ください。ちなみに、既に企画参加については締め切っております。ご了承ください。

houhounoteiyudetaro.hatenablog.com

 

 ここにあるように、「みんなのごうがふかいな展」に参加するサークルは、それぞれ自分の頒布するものの中から一押しの「ごうがふかいな」な頒布物(以下GF頒布物)を持っているということになります。それをばんばか集めていきましょう!というのが基本スタイルです。

 そして、各サークルのGF頒布物を貰ったら、同時に「ごうがふかいな券(参加サークル発行)」を貰うことを忘れないように。この「ごうがふかいな券(参加サークル発行)」は、他のサークルのGF頒布物を集めるとき、1枚につき100円分のお買い物券として使えます。お得にごうがふかいな本を集めていきましょう。

 ただし、「ごうがふかいな券」は下記の制限があるのでご注意ください。

 ・有効期限が当日限り(そのため、委託参加および代行対応は不可*1となります

 ・発行サークルの頒布物には使用できない。(GFHDによる事務局発行は除く)

 ・1度の会計につき、最大で3枚まで(該当するGF頒布物の頒布価格が300円以下の場合、使用する券面価格の合計がGF頒布物の頒布価格を上回らない範囲で)しか使用できない。(ただし、事務局の頒布物に対してはこの限りではない)

 ※例えば、下記のような頒布価格の場合、使用できるごうがふかいな券の枚数は以下のとおりです。

 200円→2枚まで

 250円→2枚まで

 300円→3枚まで

 500円→3枚まで

 

 

 さて、お待ちかねの参加サークル一覧を発表いたします。

 参加が確定していないところもあるので、その場合は確定し次第掲載していきます。

 以下、サークル番号、ブース、サークル名、GF頒布物とその著者、(本をまったく読んでないかーびぃ氏による雑な紹介)という順で掲載します。

 

0.D-01 (株)ごうがふかいなホールディングス(事務局)

 GF頒布物「妄想の中でグローリーガールが宙に浮くから僕は彼女が好きすぎてたまらないんだけどいまだにそれを認められずに書きためた手紙をかき集めて作った表層をなぞるだけの指数関数、もしくは世界が滅びるまでのわずかな間に残された一縷の希望」

 著:ひざのうらはやお 500円 文庫(A6)版

 タイトルの長さを競い合うように長いタイトルのものが並んでいる「みんなのごうがふかいな展」の中でも、最長のタイトルを誇る作品です。9つの短編を集めたものになります。すべてを読み終えてから、あなたは「ごうがふかいな」を感じることが出来るかもしれません。

 

1.C-10 ドジョウ街道宿場町

 GF頒布物「射場所を求めて 今田ずんばあらず短編集 大学の章、一」

 著:今田ずんばあらず 500円 A5版

 あの「イリエの情景」でおなじみの今田ずんばあらず先生が、「みんなのごうがふかいな展」に参戦!そのユーモラスな視点と高い叙述力が炸裂する~~~

 

2.E-13 むしむしプラネット

 GF頒布物「灰が積もりて嵐が来たる - 絶命のユーフォリア Episode 0 + trial」

 著:柏木むし子 200円 文庫版

 ツイートから察するにバイオレンス的な意味での「ごうがふかいな」のようです。首がおちる系男子に萌えるみたいなそんなことをつぶやいてましたので、くわしくはご本人に聞いてみよう。

 

3.D-24 蒸奇都市倶楽部

 GF頒布物「身を尽くしてもなお沈み」

 著:蒸奇都市倶楽部(シワ) 400円 文庫版

 スチームパンク風小説を書くことでおなじみ、蒸奇都市倶楽部からはこの作品がエントリー。一体どんな「ごうがふかいな」が飛び出すのか楽しみ。

 

4.B-29 UROKO

 GF頒布物「日々是奇怪」

 著:三谷銀屋 200円 文庫(A6)版

 ホラーとファンタジーの書き手として赤丸急上昇中の三谷氏からは短編集のエントリー。最初の作品だからより「ごうがふかいな」である、とのこと。この機会にぜひ堪能してみてはいかがでしょうか。

 

5.D-03 友引撲滅委員会

 GF頒布物「Fetishism」

 著:神坂コギト 500円 A5版

 異常性愛掌編集、と銘打たれたこの作品。人間の暗部をギラギラと照らす神坂氏の筆致とそのコンセプトの組み合わせは「ごうがふかいな」必至かつ「混ぜるな危険」と思われる。かーびぃ氏、大阪文フリでこちらと新刊とを迷った挙句新刊を購入するくらいのものです。やばそう。

 

6.E-06 ひとひら、さらり

 GF頒布物「Cis2 サンヤー号にのって」

 著:新島みのる 800円 A5版

 2があるということはおそらく1もあるのだろう。だけれど2をわざわざ指定するということは、そこに著者の意図があるというわけだろう。テキレボアンソロではジュブナイル感を存分に披露した著者が織りなす「ごうがふかいな」とは。参加者よ刮目せよ。

 

7.E-10 神様のサイコロ

 GF頒布物「神送りの空 -人の願い 神の願い-」

 著:唯月湊 700円 文庫(A6)版

 クオリティの高い合同誌を製作することでおなじみの「梅に鶯」にも所属している(唯月海理名義)唯月氏のサークルからはこの作品。カタログを見る限りではたしかに多分に「ごうがふかいな」を含んでいそう。ファンタジーに定評のあるその筆致をぜひ現場でご確認ください。

 

8.C-11 木の葉スケッチ

 GF頒布物「灯色の風景」

 著:転枝 300円 文庫版

 純文学分野でめきめきと力をつけている木の葉スケッチ代表の転枝(ころえだ)氏の中編小説。合同誌に載せたものと加筆修正したものとのこと。これに関しては合同誌掲載のものを読んだんですけど、かなりクオリティが高いごうがふかいなです。まさに王道、お手本みたいな感じです。さらにブラッシュアップしてきてそうのでぜひともお手に取ってみてはいかがでしょうか。

 

9.B-21 鶏林書笈

 GF頒布物「因果者の宴」

 著:高麗楼 100円 B6コピー本

 ということで、開催5日前にして突如隠しサークルとして登場した鶏林書笈(けいりんしょきゅう)さんが正式に参加を確定!エッセイとのこと。100円なのでごうがふかいな券ぶんで実質無料!これはすごいぞ!

 

 参加表明サークルすべてがそろいました。参加サークルは以上の10サークルです。

 

 また、使い切れなかったごうがふかいな券は、D-01(株)ごうがふかいなホールディングスにて行われる「ごうがふかいなくじ」の参加券にもなります。1枚で一回、サイコロを振るだけの簡単なくじです。当たれば豪華賞品プレゼント!はずれてもみなさんおなじみ「かーびぃポイント券」ゲットのチャンスが!ぜひとも当日はごうがふかいな展に足をお運びください!

 

 というわけで、よろしくお願いいたします!

 

*1:代行サービス利用の場合はごうがふかいな券を添付しないことで対応します

恵みや救いだけを押し付けられるその存在の願いを叶えられるものは果たして

 どうもかーびぃです。

 

 何度も出てきてしまうのは単によく聞くからなのでそこはもうお察しくださいとしか言いようがないのだが、このブログではおなじみのロックバンド、9mm Parabellum Bulletの曲に「光の雨が降る夜に」という曲がある。以下の記事を読む前に、できれば聞いてほしい。探してすぐ見つからなかったがバンドとしても知名度が決して低くないし、その中の有名な方の曲であるので聞くのはそんなに難しくないはずだ。

 ぼくはこの曲がとても好きだ。歌詞の完成度とそのデスパレートさ加減、そして時に演歌ロックとも評されるそのメロディアスな節回しもクサすぎずちょうどよい塩梅だと思う。なにしろ歌詞と曲の相乗効果がなかなかどうして、はまるのだ。

 

「NONE BUT RAIN」著:咲祈(モラトリアムシェルタ)

(通読性:17/宇宙感:23/残響度:24/嗜好:8/闇度:S 合計82点)

 

 まさかの総合首位+歴代首位の返り咲きで、物語として出来すぎているような気もしないでもないが、しかしながらぼくの主観としてこうなってしまった以上逆にこれをいじることそのものが、美しさに対する反逆のような気がして、調整を行わずそのままこのような形とした。史上初、2つのシーズンを首位で記事化されるという書き手は、おそらく師匠以外にいないだろうとも思われる。さすがはこのぼくが師と仰ぐほどの書き手だ、とこの作品を読んでとみに思った。

 この本を手渡されたとき、「批評に耐えられるかどうかわからない」という謙虚で控えめなことをコメントされたことを覚えている。確かに、先回、およびこのシーズンでもさんざん話にのぼっている師匠の前作「ファントム・パラノイア」とは全く趣を異にしているといっていい。ファンパラが黒色のパンツスーツで武装した姿だとするならば、こちらの作品は清楚でありながらどこか煽情的なピンク色のワンピースドレスだ。ある意味対照的であるがゆえに咲祈イズムを際立たせる結果となったのだと思う。その特徴的なすらりとした刀のような文体は流麗な太刀筋を描きながら健在しているが、それ以上に目を引いたのが、今までにあまり見られなかった、官能的な雰囲気である。もちろん、氏の作品にはそういった雰囲気のものがないわけではないし、実際濡れ場は非常に多く出てくるような書き手ではあるのだが、それは今までほぼすべて、陰惨さこそ放っていたものの、キャラクターそのものが持つなまめかしさというのを前面に押し出されてこない描写にとどまっていた。それがどうだろう、この作品は全然違うのである。主人公となる2人の少年の匂い立つような色気が小説内の文体全てに影響しているのではないかと思うくらい、とてつもなくエロティックで、読んでいてくらくらした。それだけ、氏は主人公の少年たちを特別にしたかったのではないか、と邪推したくなるほどで、だからこそこの作品は頭一つ抜け出ている。箱庭のような閉鎖性の強いファンタジーという枠だけでなく、あまぶんの仲にもジャンルのひとつとして確立されている「JUNE(異性愛でないもの)」としてこの作品を発表していることの意義がわかる。

 また、タイトルは直訳すれば「雨しかない」という意味で、これは本当にぼくの領域でのイメージとなるが、どことなく森博嗣の「ナ・バ・テア(None But Air)」(スカイ・クロラシリーズのひとつ)を連想させ、だからぼくはこの作品の愛称(略称?)を「ナバトレ」と呼んでいる。閑話休題

 物語の軸となっている「雨」は、少年たちの象徴でもあり、「地上にあるものを洗い流すもの」、「音を立てて空間を隔てるもの」、そして「やがては消えてしまうもの」という隠喩(引喩というのだろうか)が非常に利いているのが本当に美しい。この構造の美しさが、ぼくが咲祈氏を師匠と呼んでいる理由の一端であり、美しい構造の物語を書いていきたいとずっと思い続けてきている。

 「ファントム・パラノイア」と共にお勧めする作品である。また、文フリ東京23シーズンに続き2度目の首位という前代未聞の記録を打ち立てているのだが、これを読んでもらえれば、それは納得していただけるのではないかとも思う。

 

 以上、激戦のあまぶんシーズン、首位を飾ったのはここまでの歴代首位をキープしていた咲祈氏だった。予定調和で出来すぎているくらいが人間なのかもしれない。

そうしてまた、どこかの星では新しい朝が顔を出す

 どうもかーびぃです。

 

 ちょうどぼくが学生だったころ、アニソンシンガーを擁立していこうという動きが活発になりかけていたころ、その黎明期くらいに「アニソン界の黒船」というリア・ディゾンかよ、っていうださいキャッチコピーとともに売り出されたのがカナダ出身のアニソンシンガー、HIMEKAなのであるが、そのさほど多くはない持ち曲のひとつに「果てなき道」という曲がある。アニメ版「テガミバチ」のエンディング曲になったものだが、アニメとなった作品の雰囲気もあいまってか、星空の下で主人公たちが終わりのない旅をしているような雰囲気の中で彼女の「クロフネ」感や、そのパワーある中に秘められた神聖さを持ち合わせた声質が非常ににじみ出る味わい深い曲で、しかもカップリングにはものすごい勢いで某有名楽曲製作集団がついていたりする、まさに鳴り物入りアニソンシンガーだったわけだが、たしか活動はもう休止していたように思う。アニソンシンガーという業種は、アニソンを歌う声優に押されて今かなり数を減らしているのだ。

 と、そんなことを語るためにこの記事を立てたわけではない。

 

ペルセウスの旅人」著:佐々木海月(エウロパの海)

(通読性:19/宇宙感:23/残響度:23/嗜好:9/闇度:A 合計 81点)

 

 ひとこと。これ、最高。

 と思わずつぶやきたくなるほど、くらげ氏こと佐々木海月氏の特長と世界観を余すところなく味わえる作品。といっていい。冒頭の「テガミバチ」のくだりはその表紙の色合いからであるが、無限に広がっている世界と、やはり無数の星が全天に広がっているような情景を多く思い起こさせるこの空間の描き方は見事。先ほど語ったつたゐ先生と対照的というべきか、佐々木氏の文体は創り出された世界を映し出し、それを読者にしっかりと伝えることに重きを置かれている。その中で動く人物へ甘くフォーカスしながらも、一定の距離を保たせるのだ。だからこそぼくらは、彼らがいる世界の地平へと降り立つことなく、その美しい風景だけを、映画以上の臨場感と想像力でもって観ることができる。現実世界とその仮想空間との間にはしっかりとした硝子の板がはめ込まれていて、水族館の水槽のように、彼と我を分け隔てているのだが、その距離感というものの心地よさが本当に絶妙で、このともすれば針の上とでも表現できるくらいの微妙なバランスの上を動き続ける言葉運び、センテンスの改行にいたるまでの綿密な調整、あるいは天性の才能よって切り出されたその叙述の没入感たるや。ぼくはこの作品を読み終わったとき、虚脱感のほかに逆説的な充足感を味わわされただけでなく、この人のこの小説を読むことができたことの幸運、そして自分にとっても誰かにそういったものを提供したいという思い、そういったものが漫然一体となってひとつの思念へ収束しようとして、帰りの新幹線の中であったのだが感情が崩壊しかけた。

 それはたとえて言うなら恋人とまではいっていないけれど、気になるひとが、まさにその人にしか似あわないような服を着て現れたようなそんな感触だろうか。

 とまあ、かなりシーズンの最初の方で読んでしまっており、史上初の80点超えであったためにさすがにこれがシーズン首位だろうと思っていたわけであるが。

 実際、ぼくに与えた衝撃はここまでの歴代1位「ファントム・パラノイア」を確実に上回っていた。修正後も80点と、この作品より1点低くしたのはその意図がある。先ほどの「魚たちのH2O」もであるが、80点を超えた作品に関しては隙あらば布教したいくらいのレベルで好きだ。隙あらばを好きをかけているぞ!!!

 この作品で一番、おっ、と思った部分は、旅人がひとりではなかったというところ。このタイトルも、この作品をしっかりと表す重要なファクターであり、その作り込みも含めて、佐々木海月という創作家の世界観は深く、よどみがない。どこまでも澄み切っている群青、それが氏のカラーだと思う。

 で、確実に首位をとれる作品だと思っており、実際最後の最後まで、この作品はあまぶんシーズンのトップの座を譲ることはなかった。だが、さもあろう、その最後に読んだ作品こそが、シーズンの首位になってしまったのである。

 というわけで、次はその首位となった作品について。

 

とけていくのは水だけじゃなくて生命とか時間とかもそうだと思う

 どうもかーびぃです。

 激戦のあまぶんシーズン、3位の時点でとんでもない評点になっている。

 今回は、その本を紹介したいと思うが、恒例のマクラから入ろう。

 

 THE BACK HORNの曲に「空、星、海の夜」という曲がある。静かに盛り上がっていく構成と、どこかで聞いたことのあるサビの旋律が特徴的だが、どことなく寂寥感と、すたれた文明のなかになぜだか取り残された人間の嘆きのように聞こえてくる歌詞が好きなのだが、この作品とどこかリンクしているような気がして、読んだ後に聞くとさらに味わい深い。

 

「魚たちのHO」著:孤伏澤つたゐ(ヨモツヘグイニナ)

(通読性:17、宇宙感:24、残響度:23、嗜好:9、闇度:A 合計80点)

 

 あまぶんシーズン3位に輝いたのは、文フリ京都の際に隣になった、インパクトの強い孤伏澤つたゐ先生の「一押しの頒布物」であった。80点を超える作品すべてに言えることであるが、この作品を読み切ったとき、ぼくは脱力した。これだ。ぼくはこのひとのこれを求めていたんだということが、読み終わってようやくわかる、そういった何か、同人誌に対する恋心みたいな気持ちが湧いてくるようなレベル、それが80点超えの世界なのだろう。確かにそういう意味では、先ほど上方修正を行った師匠こと咲祈氏の「ファントム・パラノイア」も同じような感覚だったと思う。

 

 さて、それはさておくとして、この作品がどういった小説なのかというところだが、これが非常にことばでの形容が難しい。遠い未来を想定した、一種のフューチャーファンタジーであり、登場人物がひとなのかひとでないのか、という謎もありながら段々それがどうでもよくなるくらいその関係性が美しくて、深海に沈んでいるようなきらきらとした鉱石を突如として見つけたような気分でずっと読み続けていられる。つたゐ先生独特の、主人公の心情と観察対象(客体)の動きにやわらかく触れるような文体が本当に小説全体を包み込むように、そしてぼんやりとした光を当てるように空間の美しさを増していく仕組み、これが本当に素晴らしいと思う。この作品はまさにこのひとにしか書くことが出来ないもので、それを見つけられたのもかつての出会いがあったからなのだ。

 作中では、水が登場人物たちにとって劇物であり、触れてしまうと溶けていってしまうという世界観で、それでもかれらはまだ見たことのない海への想いを馳せる。そのどことなく滅びと退廃(背景となる空間も相当に衰退し、もはや滅んだと言っても過言ではない文明が舞台だ)を背後に象徴させるのも見事すぎる。いや、そもそもこの作品に見事でないところなんて全くない。最初の1文字からつたゐ先生の空間が広がり、そこは常人の日常とは全く違う世界が広がっているのだ。そしてそれは最後の1文まで、ずっと続く。創作に対するある種の妥協のなさと、そこまで作り込むことのできる精神力、そして最後まで同じ文体を保ったまま力を保ち続けられるのは、もう、そう、天才と呼んで差支えがないように思われる。

 創作同人の世界に生きていると、本当にこの手の天才が海の中のプランクトンのようにわんさかと存在していることに常に驚かされるし、この中にぼくも泳いでいるのだ、という事実に背筋が涼しくなる。

 数日前だったか、同人創作者のなかでキャッチコピーをつける遊びみたいなのをしていたが、つたゐ先生のキャッチコピーは、さしずめ「水圧空間の女王」ではないかと思う。本当に、海をモチーフとした力のある小説を自由自在に書きこなすイメージが非常に強い。陸にいる姿が実はかりそめなのではないかと思ってしまうくらい。

 

 さび付いていく世界を眺め続けてそれでも磨いていかなくてはならないとしたら。

 読み終わるとそんな気分になります。そしてこの作品は別の作品の前日譚だとか。そっちの本編の方も読んでみたいと思う。

 

 さて、次は2位であるが、これもまた言語化に苦しむタイプの作品だ。心してかかりたい。