おもちくんのメモ帳

球体の生物が日々感じたことをつぶやくよ!

終わりなき旅にも終点はある

 どうもかーびぃです。

 

 尼崎文学だらけ~夏祭り~の戦利品をようやくすべて読み終わった。あまぶんシーズンも、ようやく終わりが見えてきた。ということで、これは最後の選外まとめ。

 さっそく、残った優秀作品についても書いていきたいと思う。

 

「タフタの繭」著:灰野蜜(イン・ビトロ・ガーデン)シーズン5位 78点

 初めて読んだときに衝撃が走った。ぼくはこの作者を文フリ金沢で知ったわけだけれど、その時に手に取ったのがこちらだったらどうしていただろう。今回、一押しの頒布物ということで手に取ったこの作品であるが、前回「ウィンダーメアの座標」で綴られているような繊細な情景描写が、夢現の彼我を曖昧にさせるために活かされ、作品の構造自体がひとつの繭になるという恐るべき構成にも度肝を抜かれるが、それ以上に作品の端々にほとばしる灰野氏の作者性(作家性と呼べるものではなく、書き手の人となりと思われるものが漏れ出しているもの)にとんでもない「ごうがふかいな」を感じた。

 78点という、他のシーズンを過去にしたその評点ですらもあまぶんシーズンでは後塵を拝するようになってしまうというのがこのシーズンの恐るべきところである。実際、前に並ぶ4作を見てしまうと、確かに5位なのだという個人的な感覚はあるが、逆に言えばこの4作と別のシーズンで出会っていれば、ぶっちぎりで1位であったはずであるところも含めて、この作品には「ごうがふかいな」が詰まりに詰まっている。

 灰野氏がたたずむ幽玄の楽園に、あなたも足を踏み入れてみてはいかがだろうか。

 ちなみに、灰野氏のブログでぼくの作品「幻石」を取り上げていただいた。

scfedxxxx.hatenablog.com

 このブログにリンクを張らせていただいた。非常に読み応えのあるレビューとしてこちらも紹介されているが、灰野氏のこのレビューもなかなかどうして深い洞察が垣間見え、こちらの作品に深く向き合っていただいているその丁寧さが氏の作品とリンクしているので、興味のある方はこちらも覗いてみては。

 

「水ギョーザとの交接」著:オカワダアキナ(ザネリ) シーズン4位 79点

 長らく記事化ライン上に居座っていたタフタを上位3作から撃ち落とした作品がこちら。だがこの作品も最終の番狂わせラッシュに振り落とされてしまった。

 初めから終わりまでそのすべてにオカワダアキナがちりばめられているといっても過言ではないほど、この作品はオカワダアキナの圧倒的な作家性で走り続けている。その文体は鮮烈にして独特のペースを終始保ち続けユーモラスであり、ときにどぎつい描写を薄め、また逆に日常の描写に彩りを与えている。型があるはずなのにその文体はどこか自由自在に動き回るような印象をもち、それを保ったまま全編続いていくというところが素晴らしい。

 話としては、13歳の少年である主人公が元バレエダンサーの叔父と性的な関係になっちゃった、みたいなところから始まって、そのまま続いていく少年の夏休みを描いているのだが、この作品の文体における自由自在感のもととも思えるのが、この主人公の少年の、登場人物との距離の取り方にあるのではないかなと思う。不和といえるほどわかりあっていない母親との接し方、叔父の恋人との接し方、そして恋敵(?)との接し方すべてがこの少年のひととなりを表しながら、オカワダアキナの文体にもリンクしてくるというところが非常に「ごうがふかいな」ポイントであるといえる。

 恐るべき作品。この前のテキレボ5でも出していたというのだから、その時に出会っていたらぼくはどのように評したのだろうか。そういうところも一意的でないからシーズンレースは難しい。

 

「Eg」著:N.river(なでゆーし)

 上記2作(タフタ、水ギョーザ)とあわせて「あまぶんシーズン3大ごうがふかいな」だと思ったこの作品。ジャンル上はSFなのだろうか。羊を巡るハードストーリー。

 まず特筆すべきなのが、独特すぎる文体だ。他にはない独自の構文でセンテンスというセンテンス、パラグラフというパラグラフを固定して不思議なリズムを生み出している。この感覚、どこかプログレッシブロックを聴いている感じに近いと思った。一見とっつきにくいが、非常に中毒性の高い唯一無二ともいえる文体のまま、羊を巡る人々の物語は続いていくのだが、その一貫した文体が二人の主人公(特殊警備員の男と雇われ殺し屋の少女)の特異性を打ち消し、視点の変化による読みにくさをほとんど感じさせない造りになっているのはとても面白い。他の作品も読んでみたい。

 

「四季彩 Vol.1」著:春夏冬(春夏冬)

 春夏冬(あきなし)というサークルは実は随分前から名前だけ知っていたのだが、今回文フリ大阪で隣になるということから、ちょっと興味がわいてきたので先行してあまぶんで手に取ってみた次第である。よろず本に近い非常にシンプルな合同誌でありながら、どこか一定の方向に向いているという意味での「ごうがふかいな」を感じた。どの作品が好きかというのを選べるくらいのバリエーションで、どの作品も力がこもっているし、熱さを感じる。個人的には姫神雛稀氏の「イヴァンフォーレ理の七柱」(シリーズものっぽい)がとても世界観含めてわくわくするファンタジーで好き。通し番号順に読んで行けばいいものなのだろうか、それも作品によってまちまちな空気が流れているのがとてもおもしろい。どこからどう読んでもいい、みたいな雰囲気。

 

「夢の音が聞こえる」著:三谷銀屋(UROKO)

 特徴的なイラストでもおなじみの三谷氏によるディズニー二次創作。とは銘打っているものの、その原本をディズニーアニメ映画においているというだけで、ひとつの短編集と読むこともできるくらい読み応えのある小説が並んでいる。とくに後半のムーランをもとにした小説群がとても躍動感と生活感に溢れていて美しかった。ファンタジーの書き手としては非常に力のある書き手のポテンシャルと力強さを存分に味わえる作品。

 

「dress」著:霜月ミツカ(1103号室)

 これもなかなかの「ごうがふかいな」を感じた。とても好きな小説。主人公の鬱屈さを中心に描かれているけれども、その屈折は決して独自に抱えているものではなくて、家族やほかの人たちも別々のものを抱えているという構造があらわになっていくところ、そしてその屈折も「なるようになる」ところがなんとも不気味にリアルだ。宇野氏の白蜥蜴と並んで読むのがつらかった作品。でも好きだなあ。

 

「季刊 ヘキ Vol.7」著:新月 ほか5名(アンソロジー企画「季刊 ヘキ」)

 その名の通り、書き手の「ヘキ」をあらわにするという意味で、たしかに「ごうがふかいな」に最も近いアンソロジーということで高梨氏より勧められた合同誌。読んでみると絶妙な「ヘキ」が詰まっていて、それを押し付けないところがとてもすてきだと思った。それぞれに美しい物語が展開されている、変わった宝石箱のような作品集。

 

「漂流エロ」著:春野たんぽぽ・海老名絢・山井篤

 詩人3人の合同誌。海老名氏については「きょりかん」で詩集を取り上げたが、その構成力の高さはこちらでも光っている。春野氏の詩が個人的にはなまめかしくて好み。山井氏が発起人というかたちなのだろうか、詩についても一番貫禄が見えていたのがとても印象に残る。あとがきも面白い。

 

 ということで、選外まとめは以上。

 次回から、この激戦極まるあまぶんシーズンの第3位から順に記事化していきます。ちなみに、第3位の評点は80点。かつては前人未到の領域と言われたこの80点台に、今回は3冊入っている。どれほどあまぶんという土壌が恐ろしい世界なのかを感じ取っていただければと思うし、また、この強すぎる作品についてぼくはどれだけ語ることが出来るか悩みながら書かなくてはならないと思うとすこしぞっとする。

 ともあれ、よろしくお願いいたします。