ナイフは飛行機に持ち込めないから、空のお守りにはならない
どうもかーびぃです。
ということで、はやる気持ちを抑えつつ、文フリ東京25シーズンの3位に輝いた作品について書いていこうと思う。
黒木渚というシンガーソングライターがいる。独特なセンスで複雑で高度にリリカルな歌詞をエモーショナルに歌うのだが、なかでもインディーズ時代からの代表曲のひとつに「はさみ」という曲がある。はさみ、という極めて日常的な、しかしときとして凶器の代表にもなるものをモチーフとして展開されるこの歌は、とにかく歌詞が「黒木渚」らしさを非常に出しながら、高度な構成力を誇る名曲だろうと思う。
「人魚とオピネル」著:オカワダアキナ(ザネリ)
文体:34 空間:34 (半客観分野:68)
感覚:36 GF:32 (主観分野:68) 闇度:0.576 レート:6.560(表記:S)
総合点:130.016(文フリ東京25シーズン 3位)
今回、実は上位3作品すべてが130点台(小数点以下のみ異なる、という意味)なのだが、なかでもまんまる四天王が一角にして唯一の記事化作品0だったオカワダアキナ氏の記念すべき最初の記事化作品がこの「人魚とオピネル」というのは、なんというか個人的には満を持してといった感触が強い。これまでもすさまじく高い評点を獲得していながら、そのシーズンのレベルの高さによって記事化を阻まれていた。しかし、この作品はぼくの中でもとりわけ印象的である。
人魚を飼っている男、ひきこもりがちの主人公、ちょっとぶっ飛んでる(だが、「ちょっと」だ)お姉さん、そして時折登場する平和島周辺に息づいていそうで、それでいてどこかおかしな登場人物。そのすべてが発する輝きのリアリティ(創作空間内においてのリアリティ、という意味である)が本当にすさまじい。おかさんの他の作品も、魅力的な登場人物に溢れているが、この「人魚とオピネル」に関していうのであれば、かれらの醸成する雰囲気というものが作品全体を下支えしているというところが、圧倒的である。このモデルとなったまちの(本作でいえば東京都大田区平和島周辺の)持つ空気感を、絶妙に文章化しているという点で、オカワダ作品のベーシックにして最新鋭なのだろうなと思う。
この作品何が記事化しづらいかというと、文章ひとつがそのまま全体をなしているので、どこかひとつの部分に言及するのがものすごく難しいところにあるわけだが、特に後半の展開は、よくよく考えてみれば非常にトリッキーな要素が多く隠されているにもかかわらず、読み進めていくとそのトリッキーさに気づかないという摩訶不思議な感覚に陥る。冷静にエモーショナルなオカワダ節が乱舞し、確実に狙撃されていくそんな感覚である。
オカワダ氏の作品に漂う雰囲気が本当に好きで、ぼくもそんな雰囲気を出せるように書いていきたいなあ、などと思っている今日この頃である。
さて、続いては激闘の中惜しくも2位になってしまった、あの作品について書いていきたいと思うが、力尽きたのでちょっと休む。