日本ごうがふかいな協会広報

日本ごうがふかいな協会の広報ブログです。

そうしてまた、どこかの星では新しい朝が顔を出す

 どうもかーびぃです。

 

 ちょうどぼくが学生だったころ、アニソンシンガーを擁立していこうという動きが活発になりかけていたころ、その黎明期くらいに「アニソン界の黒船」というリア・ディゾンかよ、っていうださいキャッチコピーとともに売り出されたのがカナダ出身のアニソンシンガー、HIMEKAなのであるが、そのさほど多くはない持ち曲のひとつに「果てなき道」という曲がある。アニメ版「テガミバチ」のエンディング曲になったものだが、アニメとなった作品の雰囲気もあいまってか、星空の下で主人公たちが終わりのない旅をしているような雰囲気の中で彼女の「クロフネ」感や、そのパワーある中に秘められた神聖さを持ち合わせた声質が非常ににじみ出る味わい深い曲で、しかもカップリングにはものすごい勢いで某有名楽曲製作集団がついていたりする、まさに鳴り物入りアニソンシンガーだったわけだが、たしか活動はもう休止していたように思う。アニソンシンガーという業種は、アニソンを歌う声優に押されて今かなり数を減らしているのだ。

 と、そんなことを語るためにこの記事を立てたわけではない。

 

ペルセウスの旅人」著:佐々木海月(エウロパの海)

(通読性:19/宇宙感:23/残響度:23/嗜好:9/闇度:A 合計 81点)

 

 ひとこと。これ、最高。

 と思わずつぶやきたくなるほど、くらげ氏こと佐々木海月氏の特長と世界観を余すところなく味わえる作品。といっていい。冒頭の「テガミバチ」のくだりはその表紙の色合いからであるが、無限に広がっている世界と、やはり無数の星が全天に広がっているような情景を多く思い起こさせるこの空間の描き方は見事。先ほど語ったつたゐ先生と対照的というべきか、佐々木氏の文体は創り出された世界を映し出し、それを読者にしっかりと伝えることに重きを置かれている。その中で動く人物へ甘くフォーカスしながらも、一定の距離を保たせるのだ。だからこそぼくらは、彼らがいる世界の地平へと降り立つことなく、その美しい風景だけを、映画以上の臨場感と想像力でもって観ることができる。現実世界とその仮想空間との間にはしっかりとした硝子の板がはめ込まれていて、水族館の水槽のように、彼と我を分け隔てているのだが、その距離感というものの心地よさが本当に絶妙で、このともすれば針の上とでも表現できるくらいの微妙なバランスの上を動き続ける言葉運び、センテンスの改行にいたるまでの綿密な調整、あるいは天性の才能よって切り出されたその叙述の没入感たるや。ぼくはこの作品を読み終わったとき、虚脱感のほかに逆説的な充足感を味わわされただけでなく、この人のこの小説を読むことができたことの幸運、そして自分にとっても誰かにそういったものを提供したいという思い、そういったものが漫然一体となってひとつの思念へ収束しようとして、帰りの新幹線の中であったのだが感情が崩壊しかけた。

 それはたとえて言うなら恋人とまではいっていないけれど、気になるひとが、まさにその人にしか似あわないような服を着て現れたようなそんな感触だろうか。

 とまあ、かなりシーズンの最初の方で読んでしまっており、史上初の80点超えであったためにさすがにこれがシーズン首位だろうと思っていたわけであるが。

 実際、ぼくに与えた衝撃はここまでの歴代1位「ファントム・パラノイア」を確実に上回っていた。修正後も80点と、この作品より1点低くしたのはその意図がある。先ほどの「魚たちのH2O」もであるが、80点を超えた作品に関しては隙あらば布教したいくらいのレベルで好きだ。隙あらばを好きをかけているぞ!!!

 この作品で一番、おっ、と思った部分は、旅人がひとりではなかったというところ。このタイトルも、この作品をしっかりと表す重要なファクターであり、その作り込みも含めて、佐々木海月という創作家の世界観は深く、よどみがない。どこまでも澄み切っている群青、それが氏のカラーだと思う。

 で、確実に首位をとれる作品だと思っており、実際最後の最後まで、この作品はあまぶんシーズンのトップの座を譲ることはなかった。だが、さもあろう、その最後に読んだ作品こそが、シーズンの首位になってしまったのである。

 というわけで、次はその首位となった作品について。

 

とけていくのは水だけじゃなくて生命とか時間とかもそうだと思う

 どうもかーびぃです。

 激戦のあまぶんシーズン、3位の時点でとんでもない評点になっている。

 今回は、その本を紹介したいと思うが、恒例のマクラから入ろう。

 

 THE BACK HORNの曲に「空、星、海の夜」という曲がある。静かに盛り上がっていく構成と、どこかで聞いたことのあるサビの旋律が特徴的だが、どことなく寂寥感と、すたれた文明のなかになぜだか取り残された人間の嘆きのように聞こえてくる歌詞が好きなのだが、この作品とどこかリンクしているような気がして、読んだ後に聞くとさらに味わい深い。

 

「魚たちのHO」著:孤伏澤つたゐ(ヨモツヘグイニナ)

(通読性:17、宇宙感:24、残響度:23、嗜好:9、闇度:A 合計80点)

 

 あまぶんシーズン3位に輝いたのは、文フリ京都の際に隣になった、インパクトの強い孤伏澤つたゐ先生の「一押しの頒布物」であった。80点を超える作品すべてに言えることであるが、この作品を読み切ったとき、ぼくは脱力した。これだ。ぼくはこのひとのこれを求めていたんだということが、読み終わってようやくわかる、そういった何か、同人誌に対する恋心みたいな気持ちが湧いてくるようなレベル、それが80点超えの世界なのだろう。確かにそういう意味では、先ほど上方修正を行った師匠こと咲祈氏の「ファントム・パラノイア」も同じような感覚だったと思う。

 

 さて、それはさておくとして、この作品がどういった小説なのかというところだが、これが非常にことばでの形容が難しい。遠い未来を想定した、一種のフューチャーファンタジーであり、登場人物がひとなのかひとでないのか、という謎もありながら段々それがどうでもよくなるくらいその関係性が美しくて、深海に沈んでいるようなきらきらとした鉱石を突如として見つけたような気分でずっと読み続けていられる。つたゐ先生独特の、主人公の心情と観察対象(客体)の動きにやわらかく触れるような文体が本当に小説全体を包み込むように、そしてぼんやりとした光を当てるように空間の美しさを増していく仕組み、これが本当に素晴らしいと思う。この作品はまさにこのひとにしか書くことが出来ないもので、それを見つけられたのもかつての出会いがあったからなのだ。

 作中では、水が登場人物たちにとって劇物であり、触れてしまうと溶けていってしまうという世界観で、それでもかれらはまだ見たことのない海への想いを馳せる。そのどことなく滅びと退廃(背景となる空間も相当に衰退し、もはや滅んだと言っても過言ではない文明が舞台だ)を背後に象徴させるのも見事すぎる。いや、そもそもこの作品に見事でないところなんて全くない。最初の1文字からつたゐ先生の空間が広がり、そこは常人の日常とは全く違う世界が広がっているのだ。そしてそれは最後の1文まで、ずっと続く。創作に対するある種の妥協のなさと、そこまで作り込むことのできる精神力、そして最後まで同じ文体を保ったまま力を保ち続けられるのは、もう、そう、天才と呼んで差支えがないように思われる。

 創作同人の世界に生きていると、本当にこの手の天才が海の中のプランクトンのようにわんさかと存在していることに常に驚かされるし、この中にぼくも泳いでいるのだ、という事実に背筋が涼しくなる。

 数日前だったか、同人創作者のなかでキャッチコピーをつける遊びみたいなのをしていたが、つたゐ先生のキャッチコピーは、さしずめ「水圧空間の女王」ではないかと思う。本当に、海をモチーフとした力のある小説を自由自在に書きこなすイメージが非常に強い。陸にいる姿が実はかりそめなのではないかと思ってしまうくらい。

 

 さび付いていく世界を眺め続けてそれでも磨いていかなくてはならないとしたら。

 読み終わるとそんな気分になります。そしてこの作品は別の作品の前日譚だとか。そっちの本編の方も読んでみたいと思う。

 

 さて、次は2位であるが、これもまた言語化に苦しむタイプの作品だ。心してかかりたい。

今年度前半のシーズンレース記事化作品の評点修正について

 どうもかーびぃです。

 

 ここまでのシーズンレース、とくに文フリ東京24シーズンとそれ以前だと評点の基準に差があることに気づいた。

 そこで、記事化した上位作品については、今年度前半のものに関しては再評価し、上昇方向で評点の修正を行った。

 修正を行ったシーズンは、下記の4シーズン(全12作品)。それぞれ下記の通り評点を修正しました。

 

・文フリ東京23シーズン

 1位「ファントム・パラノイア」(咲祈)

(通読性14→16/宇宙感24→25/残響度21→23/嗜好9/闇度A 合計75→80)

 2位「こんな友達はいらない」(茶柱エクストリーム)

(通読性15→17/宇宙感19→20/残響度15/嗜好6/闇度A→S 合計62→68)

 3位「ひなげしのまどろみ」(とく)

(通読性18→19/宇宙感16→18/残響度17→18/嗜好5→6/闇度C→B 合計59→66)

 

・文フリ京都1シーズン

 1位「無何有の淵より」(孤伏澤つたゐ ほか6名)

(通読性13→15/宇宙感20→22/残響度20→21/嗜好7/闇度A 合計67→72)

 2位「ハカモリ」(七歩)

(通読性17→18/宇宙感17→18/残響度19→20/嗜好7/闇度B 合計65→68)

 3位「Nearby Monitor」(本田そこ)

(通読性17→18/宇宙感15→16/残響度19/嗜好6/闇度A 合計64→66)

 

・テキレボ5シーズン

 1位「最深の心悸の宇宙の続き」(酒井衣芙紀)

(通読性16→17/宇宙感22→23/残響度19→20/嗜好8/闇度A 合計72→75)

 2位「OMOIDE IN MY HEAD」(富田)

(通読性19/宇宙感16→19/残響度14→15/嗜好7/闇度A→S 合計63→69)

 3位「ヴェイパートレイル」(凪野基)

(通読性18→20/宇宙感17→19/残響度17→18/嗜好7/闇度C 合計62→67)

 

・文フリ金沢3シーズン

 1位「遊園地とクレイン 鏡」(梅に鶯)

(通読性17→19/宇宙感19→20/残響度18→19/嗜好5→6/闇度B→A 合計64→71)

 2位「ウィンダーメアの座標」(灰野蜜)

(通読性18→20/宇宙感17→18/残響度18→20/嗜好6→7/闇度C→B 合計62→70)

 3位「cuddle」(相楽愛花)

(通読性16→19/宇宙感18→19/残響度14→17/嗜好6→7/闇度A 合計61→69)

 

 以上です。シーズンごとのテンションの差を是正し、年間での順位だとどれくらいになるのかを念頭においてバランスを是正しました。

 刊行予定の同人誌紹介本「年刊 まんまる批評」にはこちらの修正後の評点基準として同人誌紹介をしていきたいと思います。

終わりなき旅にも終点はある

 どうもかーびぃです。

 

 尼崎文学だらけ~夏祭り~の戦利品をようやくすべて読み終わった。あまぶんシーズンも、ようやく終わりが見えてきた。ということで、これは最後の選外まとめ。

 さっそく、残った優秀作品についても書いていきたいと思う。

 

「タフタの繭」著:灰野蜜(イン・ビトロ・ガーデン)シーズン5位 78点

 初めて読んだときに衝撃が走った。ぼくはこの作者を文フリ金沢で知ったわけだけれど、その時に手に取ったのがこちらだったらどうしていただろう。今回、一押しの頒布物ということで手に取ったこの作品であるが、前回「ウィンダーメアの座標」で綴られているような繊細な情景描写が、夢現の彼我を曖昧にさせるために活かされ、作品の構造自体がひとつの繭になるという恐るべき構成にも度肝を抜かれるが、それ以上に作品の端々にほとばしる灰野氏の作者性(作家性と呼べるものではなく、書き手の人となりと思われるものが漏れ出しているもの)にとんでもない「ごうがふかいな」を感じた。

 78点という、他のシーズンを過去にしたその評点ですらもあまぶんシーズンでは後塵を拝するようになってしまうというのがこのシーズンの恐るべきところである。実際、前に並ぶ4作を見てしまうと、確かに5位なのだという個人的な感覚はあるが、逆に言えばこの4作と別のシーズンで出会っていれば、ぶっちぎりで1位であったはずであるところも含めて、この作品には「ごうがふかいな」が詰まりに詰まっている。

 灰野氏がたたずむ幽玄の楽園に、あなたも足を踏み入れてみてはいかがだろうか。

 ちなみに、灰野氏のブログでぼくの作品「幻石」を取り上げていただいた。

scfedxxxx.hatenablog.com

 このブログにリンクを張らせていただいた。非常に読み応えのあるレビューとしてこちらも紹介されているが、灰野氏のこのレビューもなかなかどうして深い洞察が垣間見え、こちらの作品に深く向き合っていただいているその丁寧さが氏の作品とリンクしているので、興味のある方はこちらも覗いてみては。

 

「水ギョーザとの交接」著:オカワダアキナ(ザネリ) シーズン4位 79点

 長らく記事化ライン上に居座っていたタフタを上位3作から撃ち落とした作品がこちら。だがこの作品も最終の番狂わせラッシュに振り落とされてしまった。

 初めから終わりまでそのすべてにオカワダアキナがちりばめられているといっても過言ではないほど、この作品はオカワダアキナの圧倒的な作家性で走り続けている。その文体は鮮烈にして独特のペースを終始保ち続けユーモラスであり、ときにどぎつい描写を薄め、また逆に日常の描写に彩りを与えている。型があるはずなのにその文体はどこか自由自在に動き回るような印象をもち、それを保ったまま全編続いていくというところが素晴らしい。

 話としては、13歳の少年である主人公が元バレエダンサーの叔父と性的な関係になっちゃった、みたいなところから始まって、そのまま続いていく少年の夏休みを描いているのだが、この作品の文体における自由自在感のもととも思えるのが、この主人公の少年の、登場人物との距離の取り方にあるのではないかなと思う。不和といえるほどわかりあっていない母親との接し方、叔父の恋人との接し方、そして恋敵(?)との接し方すべてがこの少年のひととなりを表しながら、オカワダアキナの文体にもリンクしてくるというところが非常に「ごうがふかいな」ポイントであるといえる。

 恐るべき作品。この前のテキレボ5でも出していたというのだから、その時に出会っていたらぼくはどのように評したのだろうか。そういうところも一意的でないからシーズンレースは難しい。

 

「Eg」著:N.river(なでゆーし)

 上記2作(タフタ、水ギョーザ)とあわせて「あまぶんシーズン3大ごうがふかいな」だと思ったこの作品。ジャンル上はSFなのだろうか。羊を巡るハードストーリー。

 まず特筆すべきなのが、独特すぎる文体だ。他にはない独自の構文でセンテンスというセンテンス、パラグラフというパラグラフを固定して不思議なリズムを生み出している。この感覚、どこかプログレッシブロックを聴いている感じに近いと思った。一見とっつきにくいが、非常に中毒性の高い唯一無二ともいえる文体のまま、羊を巡る人々の物語は続いていくのだが、その一貫した文体が二人の主人公(特殊警備員の男と雇われ殺し屋の少女)の特異性を打ち消し、視点の変化による読みにくさをほとんど感じさせない造りになっているのはとても面白い。他の作品も読んでみたい。

 

「四季彩 Vol.1」著:春夏冬(春夏冬)

 春夏冬(あきなし)というサークルは実は随分前から名前だけ知っていたのだが、今回文フリ大阪で隣になるということから、ちょっと興味がわいてきたので先行してあまぶんで手に取ってみた次第である。よろず本に近い非常にシンプルな合同誌でありながら、どこか一定の方向に向いているという意味での「ごうがふかいな」を感じた。どの作品が好きかというのを選べるくらいのバリエーションで、どの作品も力がこもっているし、熱さを感じる。個人的には姫神雛稀氏の「イヴァンフォーレ理の七柱」(シリーズものっぽい)がとても世界観含めてわくわくするファンタジーで好き。通し番号順に読んで行けばいいものなのだろうか、それも作品によってまちまちな空気が流れているのがとてもおもしろい。どこからどう読んでもいい、みたいな雰囲気。

 

「夢の音が聞こえる」著:三谷銀屋(UROKO)

 特徴的なイラストでもおなじみの三谷氏によるディズニー二次創作。とは銘打っているものの、その原本をディズニーアニメ映画においているというだけで、ひとつの短編集と読むこともできるくらい読み応えのある小説が並んでいる。とくに後半のムーランをもとにした小説群がとても躍動感と生活感に溢れていて美しかった。ファンタジーの書き手としては非常に力のある書き手のポテンシャルと力強さを存分に味わえる作品。

 

「dress」著:霜月ミツカ(1103号室)

 これもなかなかの「ごうがふかいな」を感じた。とても好きな小説。主人公の鬱屈さを中心に描かれているけれども、その屈折は決して独自に抱えているものではなくて、家族やほかの人たちも別々のものを抱えているという構造があらわになっていくところ、そしてその屈折も「なるようになる」ところがなんとも不気味にリアルだ。宇野氏の白蜥蜴と並んで読むのがつらかった作品。でも好きだなあ。

 

「季刊 ヘキ Vol.7」著:新月 ほか5名(アンソロジー企画「季刊 ヘキ」)

 その名の通り、書き手の「ヘキ」をあらわにするという意味で、たしかに「ごうがふかいな」に最も近いアンソロジーということで高梨氏より勧められた合同誌。読んでみると絶妙な「ヘキ」が詰まっていて、それを押し付けないところがとてもすてきだと思った。それぞれに美しい物語が展開されている、変わった宝石箱のような作品集。

 

「漂流エロ」著:春野たんぽぽ・海老名絢・山井篤

 詩人3人の合同誌。海老名氏については「きょりかん」で詩集を取り上げたが、その構成力の高さはこちらでも光っている。春野氏の詩が個人的にはなまめかしくて好み。山井氏が発起人というかたちなのだろうか、詩についても一番貫禄が見えていたのがとても印象に残る。あとがきも面白い。

 

 ということで、選外まとめは以上。

 次回から、この激戦極まるあまぶんシーズンの第3位から順に記事化していきます。ちなみに、第3位の評点は80点。かつては前人未到の領域と言われたこの80点台に、今回は3冊入っている。どれほどあまぶんという土壌が恐ろしい世界なのかを感じ取っていただければと思うし、また、この強すぎる作品についてぼくはどれだけ語ることが出来るか悩みながら書かなくてはならないと思うとすこしぞっとする。

 ともあれ、よろしくお願いいたします。

 

長い長いみちのりを歩いてもその先に何があるのかはわからない

 

 どうもかーびぃです。

 

 文フリ大阪まであと2日となりましたが、まだまだあまぶんシーズンが終わりません。30作品以上買ってるし、そうすると文フリ東京の倍あるわけでまあしゃあないんですが、にしたってようやくのこりが10を切ったかなという感じで、なんとか後半戦に入ってきたのかなと。

 

 というわけで、今回も選外まとめ。その4になると思うのですが。今回は評点なしで。

 

「真夜中のころ」著:高梨來(午前三時の音楽)

 いやーもうすごいよかった。ド直球恋愛小説で一撃で死にましたよほんと。來さんにリアルで遭遇した感じがものすごく出ているという意味で非常にごうがふかいなの強い作品だったと思います。72の壁をぶち抜いてきているあたり、他のシーズンであれば余裕でトップだったと思われるが激戦極まりないあまぶんシーズンでは選外に。というかほんとこんな作品があまぶんには多すぎるんです。他のシーズンがくすむレベルの強い作品ばかり。

 BLではないんですけど、だからこそそれ以上になんだかリアルで、あたたかくて、主人公がとてもかわいいなあとか思いました。

 

「50/50」著:土佐岡マキ(眠る樹海堂)

 ミステリ風のゲーム理論極めました異能バトルみたいな感じのやつ。いや説明になってないが。緊迫した風景とオチの対比が面白いなあとは思いつつも、かーびぃ氏の悪い癖でこういった作品の全体構造はわりとすぐ勘づいてしまい、おそらく後でひろわなくてはならないことばとかもすぐに拾ってしまう悪癖のせいであんまりこう入っていけなかったし、それがジャンル不利を引いている可能性はかなりあるんですけど、でも面白いです。この探偵コンビの構成が非常に素敵。シリーズものならちょっと気になるなあ。

 

エフェメラのさかな」著:凪野基(灰青)

 これ、ほんとすごい。めちゃくちゃ完成度の高い短編集です。海と人魚にまつわる短編集なんですけど、どの話も切なくて、どこか官能的。そして出てくるキャラクターの魅力がすごい。凪野さんは「ヴェイパートレイル」でテキレボ5シーズン3位になってるんですけど、この人の魅力はとにかく小説全体がものすごく緻密に作られていて、歯車とゼンマイで出来た、寸分たがわぬ動きをするからくり人形のようで、読んでいて本当に強い力を感じました。もっとも何がすごいってこの作品実は75点なんですよ。でも選外ってなんじゃそれでしょ。コンセプト短編集としてのクオリティでいえば激戦のあまぶんシーズン登場作の中でもトップになるのではないかな、と思います。それくらい緻密で、短編のひとつひとつはもちろん、その中の一文一文にまできっちりと作り込みがなされた作品です。もはや職人。

 

「ポエムの墓」著:にゃんしー(おとそ大学パブリッシング)

 まずインパクト。この作品にはもう文体からなにからなにまでぜんぶポエムがすごいです。詩っていうよりかはやっぱポエムなんです。感情から現状から人間からなにからなにまで、最終的にはポストアポカリプスみたいな様相を呈していても作品の根底にはポエムが眠っていて、それがずっとバンドのベースみたいに延々と静かに主張し続けているっていう。めちゃくちゃな演奏をつづけていようと、にゃんしー氏がにゃんしー氏たらしめているその要素がポエム、っていう感じの純文学。いやほんと好き。これ好きですわ。エフェメラとは全然別の方向で、これはもう誰にもまねできないセンスみたいなやつです。さすが尼崎の文学モンスターことにゃんしー氏ですよ。え、なぜエフェメラと比べたかって?おなじ75点だからに決まってるでしょ。

 

「海のとなり」著:古月玲(サテライト!)

 海を題材にしたもの、ぼく結構買いあさっちゃってるんですけど、これも「永遠まで、あと5秒」(文フリ東京シーズン首位)の古月氏によるもので、その文体は非常に澄み切った清浄な世界が広がっている。わずかなページ数に収められた掌編たちは、どれもこれも人間の生ぬるさから離れて描かれたもののような気がしてならない。すごく美しく、どこまでも心地の良い無機質な冷たさが支配する世界に深く深く没入できます。

 

 ということで、以上5冊。

 ほんと、どれもこれも美しいし、信じられないくらいすごい作品ばかりで、本当に語彙力を失いまくっている。今上位となっているものたちなんか、ぼくは果たして記事にして語ることが出来るのか不安なくらいだ。

 だが、まだまだ有力な書き手は残っている。番狂わせも十分に起きるかもしれない。