時は巻き戻せるって近所のじいさんがそういったんだ
どうもかーびぃです。
※この記事は「創作 Advent Calendar 2017」に参加しています。
ということで、みなさん改めてこんにちは。
球体の生物ことひざのうらはやおと申します。干支は豚年です。
普段は一周まわってスタンダードな小説を書いたりザリガニと喧嘩する仕事をしています。どんなものを書いているのかなんて、自分でわかる方がすごいしわかるようならツイートで済むじゃんなあ、その結果がこれだよ、的なやつを書いているのでその辺はまあなんか適当に読みたい人は読んでもらえればって感じです。少なくともシチュエーションだとかキャラクターだとかにこだわるようなものではないし、ここまでこの文章を注意深く読めばわかると思うのですがすなわち単純明快に言葉にするのがどちらかというと苦手で、だからこれはそういうひとが読むような記事なんでアレです、無理に読む必要はありません。
大トリなのになんちゅうことを書いてるんだにゃあ~。
今のは「なんちゅうこと」と「ニャンちゅう」をかけた渾身のギャグです。こんなんばっかりなんで気にしないどいてください。
あと、ぼくの活動の有名どころというか、この活動だけで今の知名度になっているものなんですけど、同人誌即売会に出てはそこに同じく軒を連ねている人の作品を買っては読み勝手に読み、評点をつけてコメントをするという割とギルティなことをやっています。
「まんまる書房」というサークルを立ち上げ、ひとりで創作活動をしていた折に「ごうがふかいな」という概念を発見するに至り、「まんまる書房」を下位機関とした「ごうがふかいなグループ」を設立、「(株)ごうがふかいなホールディングス」(注:サークル名です。株式は発行していません)の代表取締役社長として日々「ごうがふかいな」の探究に忙しい毎日です。知らんけど。
ということで今現在、ぼくの活動拠点のサークルは3つある。「(株)ごうがふかいなホールディングス」「(株)ごうがふかいなコーポレーション」(注:同上)「まんまる書房」の3つだ。これらはすべて「ごうがふかいなグループ」と呼称している。イベント参加も「まんまる書房」だったり「(株)ごうがふかいなホールディングス」だったり、その場に合わせたサークル名義で出展している。なので、この3つのうちどれかが出ていれば、そこにはぼくがいると思ってほしい。
さて、具体的にどのように同人誌に評点をつけてコメントしているかというと、このブログに「シーズンレース関係」や「批評等」というカテゴリがある。シーズンレースとは、1即売会イベントを単位とした同人誌評点競争会であり、全作品評点化後、上位3作品についてはその評点と詳しい紹介を、それ以外の作品についても読了したものに関して1記事にまとめてコメントすることとしている。例えば、第二十五回文学フリマ東京で入手したものについては「文フリ東京25シーズン」と題し、その上位3作品については記事化、のこりの作品については選外まとめとしてコメントする、といった具合である。2017ステージ(2016年11月23日~/文フリ東京23シーズンからテキレボ6シーズンまで)における評点方式については、こちらで説明しているが、3分野各30点満点+嗜好10点満点+闇度ボーナス(最大10点)の基本100点満点+αで評点化している。
また、基準点が拙著「順列からの解放」で、こちらが59点として他作品を評点化している。同作品は自分の中ではかなりの自信作であるため、その基準は実は厳しく、60点を超えれば良作、65点以上で推薦作品、70点以上となればそのイベントの主力級となるほどの作品というのが、ここ1年間評点化してきた感覚だろうか。この1年間でのべ130冊の作品を評点化したが、70点以上のものに関しては再レビューし、その内容を同人誌に収めて頒布することに決めた。つまり、70点というのが2017ステージでのひとつの大きな基準ということになる。
せっかくなので、2017ステージを振り返るとともに、各シーズンについて、および70点以上の作品の評点と順位について、またついでのついででそのイベントでの本サークルの総頒布数(ただし概数)についても記載していきたいと思う。
2017ステージイベント概要報告
1.文フリ東京23シーズン(2016年11月23日)
まんまる書房として本格的に活動をスタートした第23回文学フリマ東京から、シーズンレースを開始した。試験的導入もあり、この時評点化したものは8冊。概要は下記の通り。当時は「そりゃたいへんだ。」のメンバーとしての同人活動履歴しかなく、「まんまる書房」は出たばかりのサークル。新刊「順列からの解放」をひっさげたが、「ムライタケさんの著書はないんですか?」や「藤宮さんはいらっしゃらないんですか?」や「穂積くんの同級生なんです」など、「そりゃたいへんだ。」の他のメンバーを訪ねてきた人が意外に多かったのが個人的に驚いたところだった。いや、ぼくもムライちゃんの作品欲しいんですけど。マジで。
まあそれはともかく、活動実績は以下のとおりである。なお、ステージ後半の作品群との評点差が激しいことを鑑み、上位3作品については再評点を行っており、再評点後の評点を正式な評点として再レビューを行うかどうか決定している。
総頒布数:9
シーズンレース概要(通読性/宇宙感/残響度/嗜好/闇度/総合)
1位
(14/24/21/9/A/75) ※修正後(16/25/23/9/A/80)
2位
「こんな友達はいらない」著:茶柱エクストリーム(茶柱エクストリーム)
(15/19/15/6/A/62) ※修正後(17/20/15/6/S/68)
3位
(18/16/17/5/B/59) ※修正後(19/18/18/6/B/66)
2.文フリ京都1シーズン(2017年1月23日)
ぼくの記念すべき、初めての遠征だった。千葉県在住のぼくはこのときまで関西に行ったことはほとんどなく、本当に全く土地勘も何もない状態での遠征だった。全国展開したいという野望はすでにあり、この時点では文フリ前橋にも参加する予定だったことも覚えている。
なによりも印象的なのは、左隣が孤伏澤つたゐ氏の「ヨモツヘグイニナ」、右隣が七歩氏の「酔庫堂」という、知る人ぞ知るビッグネームに挟まれての参戦で、両脇に絶えず人が訪れるなか、間の自分のブースを飛ばしていくというのがなんとも悲しくもあり、おかしくもあった。また、このイベントは初めての遠征で、当時「V~requiem~」を鋭意執筆中ではあったものの、新刊を用意する気力もアイディアもなく、苦肉の策で「小説のくず量り売り」というシステムを使って、かつてフリーペーパーに掲載したものやネットに流したものなどを再構成して並べるというようなことをやった。しかし、それが仇となったようで、変則的過ぎる上に陳列の工夫がなかったせいか、ほぼほぼ客が来ず。知名度の低さをとことん思い知ったイベントであった。
反面、頒布物については良質なものを選ぶことができたし、前述のとおり両脇を(一次創作界隈での)大手に囲まれたことからその頒布物を知ることもできたのが非常に有益であったといえる。ここでの(ある種の)惨敗経験は、非常に多くのところに生きている。また、ここで量り売りを行うにあたってぼくが用いた単位が「ごうがふかいな」である。この時点では「ごうがふかいな」という概念が今ほど明確化/明文化しておらず、今以上にフィーリングで使っていた。だが、ここで自分の小説の「ごうがふかいな」について向き合ったのが、今となってはぼく自身のターニングポイントとなったといえる。文フリ京都なくして「(株)ごうがふかいなホールディングス」は存在しない。そんな学びの多いイベントだった。あとクソ寒かった。
また、このシーズンにおいても、再評点作業をを行っている。
総頒布数:1
1位
「無何有の淵より」著:孤伏澤つたゐ ほか6名(ヨモツヘグイニナ)
(13/20/20/7/A/67) ※修正後(15/22/21/7/A/72)
2位
(17/17/19/7/B/65) ※修正後(18/18/20/7/B/68)
3位
(17/15/19/6/A/64) ※修正後(18/16/19/6/A/66)
3.テキレボ5シーズン(2017年4月1日)
Text-Revolutionsことテキレボに初めての単身参加した回。実は第2回に「そりゃたいへんだ。」で出展しているがその時の頒布数は本当に思っていた以上に悪かったし、アンソロに3本も出したのになあ、などと思っていた。
この時、隣だったのが「燃えてるゴミ」の富田氏とずんばニキこと「ドジョウ街道宿場町」の今田ずんばあらず氏。両方とも、第一印象から一次創作文芸界では異端の存在だと認識したのであるが、今になって考えると、そこに配置されていること、そしてこの後のぼくの身の振り方を考えるに、ぼくもテキレボ運営に同じ扱いを受け、さらにそれが結果的に正しかったのだということがわかっている。実はひざのうらはやお2作目となる長編小説にして、もはやまんまる書房のベストセラーと言っても過言ではない実績を誇るフューチャーファンタジー小説「V~requiem~」は、このイベントが初出であったのだがほとんど出ず、散々な結果だった。その原因としては、文フリ京都で全く出なかった「短編小説量り売り」をほとんど改良せず(改良しなくていいところ改良した)にそのままサービス化してしまったせいで、選択肢が際限なく増えた上にシステムが不明すぎたことに尽きると思う。テキレボはとりわけ同人マンが多く飛び交うイベントである。みなさんご存じの通り、ぼくをはじめとした(?)手練れの同人マンはひとつのブースをそこまで細かくは見ないし、気の合いそうなワードを検索エンジンよろしく拾い上げてチェックをするものである。そうでなければ現場で表紙のデザインやらうんちくやらで決めるものだ。当時のぼくのプロモーション方法はその原則に真っ向から反抗するものであった。そりゃ売れんわ。あほか。
特に、イベント終了後の打ち上げに、ものの試しに出てみたのがよかった。あそこの雰囲気とあの場ならではのプロモーション方法を自分なりにつかめたような気がしたからこそ、ぼくは公式打ち上げのようなものに参加するようになったし、その場で雰囲気を掴んでいこうと考えたのである。もちろんこれは諸刃の剣めいた部分もあるので慎重にしていかなくてはならないが、テキレボ5での飲み会の場や代表の小太郎氏との会話がなければ今のぼくはこのシーズンレースを続けていたかどうか微妙なところである。
なお、このシーズンにおいても上方修正を行っている。
総頒布数:2
1位
(16/22/19/8/A/72) ※修正後(17/23/20/8/A/75)
2位
「OMOIDE IN MY HEAD」著:富田(燃えてるゴミ)
(19/16/14/7/A/63) ※修正後(19/18/15/7/S/69)
3位
(18/17/17/7/C/62) ※修正後(20/19/18/7/C/67)
4.文フリ金沢3シーズン(2017年4月16日)
金沢は、個人的にはとても好きな街で、なにしろご飯がおいしいのと、観光ポイントが集約されているところも好みだ。新旧入り混じる街並みも個人的に好きだし、文豪の地としても有名である。
そのためか、文フリ金沢も非常に独特な雰囲気が流れており、全体的に静かに時間が過ぎていったように思う。もっとも、それは当たり前で、なぜかというとぼくはここで同人活動史上最低、かつ初の0頒布という記録を打ち立てたのだ。もっともこれはイベントのせいでも何でもない。だいたい今から考えると明らかに頒布する気がなかった。お昼に金沢カレーを食べに行くために1時間近くブースを空けていたし、作品を物色するのに4,5回くらいブースを空けていたので、開催時間の4,5割はブースが無人状態になっていたと思われる。あほか。今から考えると完全にあほだ。
という感じで、頒布数を増やそうとも思っていなければ特に何も考えず、ただ金沢を満喫していただけっていう。それはそれで楽しかったのだが、これではせっかく持ってきたこの重たい荷物は何のためだったのかというツッコミが入ってしまう。
ただ、シーズンレース自体も独特な空気が流れていて、ここで出会った人々や、出会うことはなかったけれどもここで存在を知った人たちは今でも交流が続いている人が多い。例えば著者紹介の鬼才、相楽愛花氏はこのイベントで見つけることができたし、以前拙作の「幻石」を紹介していただいた灰野蜜氏はこの文フリ金沢シーズンの入賞者である。特に今回の1位作品となった梅に鶯の合同誌は非常にハイクオリティで、とても丁寧な合同誌の製作をしているサークルなのだということを知ることが出来た。
このように、頒布数が0であることをネタにしながらも、文フリ金沢は非常に多くの学びを得たと思っている。頒布数ばかりが大切ではないのだ。
なお、上方修正を行っているのはこのシーズンまでである。
総頒布数:0
1位
(17/19/18/5/B/64) ※修正後(19/20/19/6/A/71)
2位
「ウィンダーメアの座標」著:灰野蜜(イン・ビトロ・ガーデン)
(18/17/18/6/C/62) ※修正後(20/18/20/7/B/70)
3位
(16/18/14/6/A/61) ※修正後(19/19/17/7/A/69)
5.文フリ東京24シーズン(2017年5月7日)
シーズンレースを始めて半年。この辺あたりから徐々にシーズンレースの知名度が上がってきたような気がした。テキレボで交流した人たちにあいさつにいったり、新刊を買ったり、巡り巡っていくなかでいろいろな学びがあったように思う。それは、「そりゃたいへんだ。」時代には得られなかったものでもあるし、この世界に足を踏み入れることによって得られたものでもある。何事も踏み出してみなければわからないなあと思い、地方遠征にさらに拍車をかけるようになった。そういう決意が生まれたのがこのイベントだった。
作品も前回以上に質の高いものが多く、また買いあさる量もかなり数が増えた。今のスタイルを確立する大元は、このシーズンで出来上がったといっても過言ではない。
そういうこともあって、このシーズンからは上方修正を行っていない。
総頒布数:14
1位
(18/20/19/9/A/73)
2位
(21/19/16/9/A/72)
3位
「かわいい女の子は私の小説なんて読まない」著:小町 紗良(少女こなごな)
(18/19/17/7/S/71)
4位
「ガールズ・イン・ブルー」著:鹿紙路
(19/18/19/7/A/70)
6.文フリ岩手2シーズン(2017年6月11日)
文フリ岩手は、プロモーションについていろいろ試行錯誤したような記憶がある。規模でいえば京都よりずっと小さいところで、京都のようなことになるのは少し避けたいと思った。しかしなにしろ飯がうまいのはびっくりだ。ホヤの刺身とか食ってた。前日ツイキャスもしようかどうか考えて、どうにも人が来なさそうだからやめたことをすごく覚えている。ぼくはむしろ愚直で一本やりなやり方が一番合っているのかもなあ、と思えるのはもう少し後になってからで、前述のように知名度も少しずつ出てきていて、またこのころ確かあまぶんに参加を決めたような記憶があるし、ぼくの心は少し浮足立っていたのだと思う。
結果から言えば、東北の地でぼくはかなり大健闘をしたように思う。本拠地ではない、そして規模もそれほど大きくない場所でそこそこの頒布数だったのではなかろうかと思えたし、手に取ったものもかなり癖のつよいものばかりで、非常に飽きなかった。イーハトーヴすげえ。
総頒布数:10
1位
(22/17/17/6/A/69)
1位(同率)
「床に散らばるチョコレート」著:カカロットおじさん(オミカワークス)
(20/19/18/5/A/69)
3位
(17/19/17/8/A/68)
7.尼崎文学だらけ~夏祭り~シーズン(2017年8月27日)
ぼくの中での転機になったというか、2017ステージで最も盛り上がった場所といえばこの尼崎文学だらけ、通称あまぶんであったと思う。あまぶんのサービスはどれも居心地がよく、そして頒布数を向上させるきめ細やかな取り組みがなされていたように思う。あまぶんのレポートについてはこちらにまとめてある。書き手の個性を最大限出しつつ、それでもイベントという体裁を保つというこの取り組みは非常に革新的で、かつ、原点に回帰しているようなそんな印象が強い。次回の予定は未定とのことだが、また参加したいイベントである。
このイベントでは地方遠征イベントにも関わらずかなり高いレベルの頒布数を記録し、同人活動をして初めて完配するものができた。ごうがふかいなとは何か、それをより深く探ることが出来た稀有なイベントだった。
というわけで恐ろしいほど多くの同人誌をかかえ(30冊!)、しかもそのどれもが圧倒的名作ばかりで、評するのにも苦労した。70点以上が過半数の22点にのぼるという高品質さ加減は、他のシーズンの追随を許さない。その層の厚さもすごいところだ。
つまり、このシーズンでは20位(同率を含む)まで発表することになるので、みなさん心してみていただきたい。
総頒布数:21
1位
「NONE BUT RAIN」著:咲祈(モラトリアムシェルタ)
(17/23/24/8/S/82)
2位
(19/23/23/9/A/81)
3位
(17/24/23/9/A/80)
4位
「水ギョーザとの交接」著:オカワダアキナ(ザネリ)
(17/22/23/7/S/79)
5位
「タフタの繭」著:灰野蜜(イン・ビトロ・ガーデン)
(21/19/20/8/S/78)
6位
「エフェメラのさかな」著:凪野 基(灰青)
(17/23/20/8/A/75)
6位(同率)
「ポエムの墓」著:にゃんしー(おとそ大学パブリッシング)
(15/23/20/7/S/75)
8位
「嘘の街を出ていく」著:らし(おとといあさって)
(21/19/19/8/A/74)
9位
「手ノ鳴ルホウヘ」著:紺堂カヤ(つばめ綺譚社)
(23/18/19/8/B/73)
9位(同率)
「真夜中のころ」著:高梨 來(午前三時の音楽)
(18/16/24/8/A/73)
11位
「グランジナースの死」著:ひのはらみめい
(11/24/20/7/S/72)
11位(同率)
「野をゆくは魔女と景狼」著:まるた曜子(博物館リューボフィ)
(15/22/21/7/A/72)
11位(同率)
「白蜥蜴の夢」著:宇野寧湖(新天使文庫)
(18/18/20/6/S/72)
11位(同率)
「お母さん」著:鳴原あきら(恋人と時限爆弾)
(18/19/18/7/S/72)
11位(同率)
「dress」著:霜月ミツカ(1103号室)
(17/18/19/8/S/72)
16位
「きょりかん」著:海老名絢(パレオパラドキシア)
(19/19/18/8/A/71)
16位(同率)
「斜陽の国のルスダン」著:並木陽(銅のケトル社)
(19/17/20/8/A/71)
16位(同率)
「夜が濃くなる」著:豆塚エリ(こんぺき出版)
(18/20/20/6/A/71)
16位(同率)
「夢の音が聞こえる」著:三谷銀屋(UROKO)
(20/18/18/8/A/71)
20位
「海のとなり」著:古月玲(サテライト!)
(19/19/19/8/B/70)
20位(同率)
「キスとレモネード」著:彩村菊乃(キスとレモネード)
(16/21/21/7/B/70)
8.文フリ大阪5シーズン(2017年9月18日)
あまぶんの興奮冷めやらぬなか、ここからは一種の虚脱状態でイベントを迎えてしまったところが個人的な反省点である。ここまでで、2017ステージ内では「順列からの解放」(文フリ東京23)、「V~requiem~」(テキレボ5)、「まんまるくろにくる」(文フリ岩手2)、「こんにゃくの角で戦う大統領」(文フリ岩手2)、「幻石」(あまぶん2)と、5冊もの新刊を出した(しかもうち3冊は完全新作)。昨シーズンの新刊は0である。ここまでのハイペースがたたり、ぼくの執筆速度は格段に落ちてしまっていて、あまぶんシーズンの記事すらもうまく書けないような状態に陥っていた。
そんな中でまともにイベントなど迎えられるはずもなく、かなり脱力した状態で、簡素な設営スタイルで臨んだことを覚えているし、最初に現れた人(後にわかったのだが、だれあろうたこやきいちごさんだった)が指摘するまで値札すら貼っていないという超絶やる気のなさを発動してしまいまことに申し訳がなかった。
だがしかし、あまぶんから1か月しかたっておらず、そんな状態であっても頒布数は思っていた以上には落ちず、これが非常に不思議だった。むしろ、あまぶんの宣伝効果でもあったのだろうかと思うくらいだが、実際どうなのだろう。
なんとも言えないが、とにかく思っていた以上に盛況だったことと、打ち上げを途中離脱する際に結構ギリギリだったことが妙に印象に残った。
また、手に入れたものについても、かなりの高レベルなものが多かった。あまぶんほどではないが、充実したシーズンレースだったように思う。
総頒布数:18
1位
(20/23/24/9/A/83)
2位
「Poetry Sky Walker」著:そにっくなーす 他4名(白昼社)
(19/21/20/8/S/78)
3位
(18/20/20/7/S/75)
4位
「ホクスポクス」著:凪野 基(灰青)
(20/20/20/7/B/72)
4位(同率)
「赤ちゃんのいないお腹からは夏の匂いがする」著:にゃんしー(おとそ大学パブリッシング)
(15/20/20/7/S/72)
6位
「少女の構造計算書」著:灰野蜜(イン・ビトロ・ガーデン)
(19/19/18/8/A/71)
7位
「WORLD ENDS」著:凬花ほか3名
(15/19/18/8/S/70)
9.はなけっとシーズン(2017年10月14日)
花巻で繰り広げられる新しい同人誌即売会の話を聞いて、これはもうほんと、ノリで参加しようと思った。なぜかというと東北方向へは比較的宿がとりやすいからである。会場は、交通の便という意味でいえば決してよくはなかったが、そんな空間であの熱狂っぷりがあったのがなんというか運営の力と現代のムーブメントのなせる業なんだなあとも思った。
文フリ岩手で見知った人が多く、また様々な新しい出会いがあった。頒布数も規模や会場のアクセスからはとても考えられない(といっては少し失礼かもしれないが実際そう思った)数を記録した。次回は繁忙期の6月ということで、参加を考えてはいないのだが、また時期を見て参加したい所存である。
そもそも小説作品の頒布ブースが少なかったこともあり、その戦利品はほかのシーズンと比べると少ないが、とはいえなかなかどうして良質なものに恵まれているように思う。平均値が高いのだ。
総頒布数:11
1位
「ペットボトルの育て方」著:小山田 拓司(シープファクトリー)
(19/17/19/7/A/69)
2位
(19/18/19/7/B/68)
3位
(17/16/17/7/S/67)
10.テキレボ6シーズン(2017年10月28日)
そして、2017ステージ最後を飾るのは、第6回テキレボである。ぼくもテキレボには積極的参加をした。具体的に言えばイベント企画「みんなのごうがふかいな展」を主宰し、ごうがふかいなを知らないひとたちへ、ごうがふかいなとは何かをみんなで考えてもらうという企画をやった。これぞごうがふかいなだ、というものを推しとして出してもらって、その同人誌をみんなで集めていきましょう、というような相互扶助企画である。この「みんなのごうがふかいな展」については後程特別シーズンが控えており総括はそのあとになると思われるので今回は割愛する。
実際のところ、主宰であるところもありエキセントリックさを十分抑えて真面目に企画に取り組んだせいか、総頒布数はこちらが見込んだほどではなかったのだが、よくよく考えればこれだけ高度(つまり、わかりにくい)な企画をやっていてそれがある程度受け入れられているという現状そのものがすでに素晴らしいわけであって、見込み自体が明らかな高望みであったのだろう、と今になってそう分析している。
え?あれが真面目に見えない?かーびぃ氏としては真面目なほうですよあんなん。
実際、テキレボスタッフもこの「みんなのごうがふかいな展」の立ち位置の選定には困ったようで、かなり試行錯誤をしていただいた痕跡が見える。もっとも、持っていなかった概念を取り込むのはとてつもない苦労がいるわけで、その点を巧く擦り合わせていただいたところは非常に素敵だと思うし、やはり諦めないという心は大事なのだなあと思うばかりだ。
このテキレボを経験して、ぼく自身の頒布スタイルというものも随分確立されつつあるのかな、と思った。
また、シーズンレースの結果については、昨日駆け足でご紹介した通り、予想をはるかに上回る高度な戦いのすえ、(こちらは予想通りであったわけだが)2017年最強の合同誌と言っても過言ではない名作合同誌「心にいつも竜(ドラゴン)を」が全シーズンレースの最高評点記録を大幅に塗り替え、首位に輝いている。
総頒布数:21
1位
「心にいつも竜(ドラゴン)を」著:柊呉葉 他9名(えすたし庵)
(19/25/26/9/A/86)
2位
(15/25/25/S/83)
3位
「フリンジラ・モンテ・フリンジラ」著:佐々木海月(エウロパの海)
(22/20/20/9/A/78)
4位
「ウーパールーパーに関する考察」著:伴 美砂都(つばめ綺譚社)
(20/20/22/8/A/77)
5位
「銀河鉄道の夜の夜の夜の夜」著:遠藤ヒツジ(羊目社)
(18/21/22/8/A/76)
6位
「踊る阿呆」著:オカワダアキナ(ザネリ)
(20/20/20/8/A/75)
7位
「旅人は地圖を持たない」著:小町 紗良(少女こなごなと愉快な道連れ)
(16/20/21/8/A/72)
7位(同率)
「斃れぬ電柱」著:らし(おとといあさって)
(19/19/20/7/A/72)
7位(同率)
「暁天の双星」著:泡野 瑤子(Our York Bar)
(19/18/20/8/A/72)
10位
「しろたえの島、いつくしの嶺」著:鹿紙路
(16/20/21/7/A/71)
11位
「調律師」著:小高まあな(人生は緑色)
(20/14/19/7/S/70)
ということで、以上が各シーズンの概要である。
このように、ぼくは様々な場所に出展しては、自らが受けた情報に基づいて同人誌を発見し、収集し、ある一定の規格に基づいて評点化し、紹介するという試みを行っている。この活動を行っていくなかで気が付いたことは、情報発信それ自体が、受け手に届かない可能性が高いという残酷な事実である。これまでのシーズンレースの概要から見てもわかるように、文フリ東京24シーズンあたりから急速に評点的な意味での同人誌の質が上がっている。これは、ぼく自身の情報収集能力が向上したからではなく、創作同人界隈に急速に交流を図った結果、自らの嗜好に合いやすい同人誌の情報を拾いやすくなったためと考えられる。すなわち、情報というものは自分ひとりで拾うものではない、周囲の人間、特に同じ界隈で活動している書き手のみなさんがあってこそ、新たな情報を拾い集めることができるのである。
だからこそ、ぼくは自分の同人誌を書くことをやめるつもりはないし、この活動も続けていこうと考えている。書き手同士で持っている情報は、当然ながらみんながみんな異なっている。十人十色、千差万別という言葉がある通りだ。その差異に注目して、零れ落ちそうな情報を積極的に拾っていくことで、自らにとってよりよい環境を互いに作り上げていく、そういったことをしていきたいとぼくは考えている。
ということで、これからもよろしくお願いします。
まだのみなさんも、球体の生物を見かけたら、また同人誌を漁ってるなと生暖かい目で見ていただければ幸いです。
あ、当然創作もしていくつもりなのでオナシャス!
やっぱりしまりがねえな、おい。
黄金の都にたどり着いたその瞬間のため息の心情なんて誰にもこたえられるはずがない
どうもかーびぃです。
さて、2017ステージ最後のシーズンの最後の記事である。よくもまあ1年間飽きもせず130冊も読んだなあと思う部分と、130冊すべて紹介したいところはあるけれど一部しか紹介できなくてもどかしいという部分もある。
THE ALFEEの名曲のひとつに「エルドラド」というものがある。とあるアニメのエンディングに使用されているのだが、民謡を思わせる歌詞、そしてそれを補強するメロディ、アルフィー独特のサウンド、そのすべてがバランスよく存在していて、彼らでしかなしえないハーモニーが光る曲だ。派手さこそないものの、この曲の行き着くところまで行ってしまった感は、なかなか音楽には出てこない感覚ではないかなと思う。
「心にいつも竜(ドラゴン)を」著:柊呉葉 ほか9名(えすたし庵)
(通読性:19、宇宙感:25、残響度:26、嗜好:9、闇度:A 合計86点)
通称「ここドラ」と呼ばれる、企画段階からして反則級の作品と常々ツイートした同人誌が、満を持して首位となった。ぼくはこの企画が発表されてから、「この作品と他の作品たちとの熾烈な戦いになるだろう」と予言した本シーズンレースであったが、強豪作家の主力作品や突如現れた伏兵にも屈せず、シーズン首位どころか、2017ステージ最高評点(しかも80点台後半!)をたたき出し、悠然とその王座を誰にも明け渡さなかったのは、もはやさすがとしか言いようがない。合同誌というある種のマイナス要素すらひっくり返すその火力に驚くばかりである。
作品の構成自体は非常にシンプルだ。5人の書き手に5人の描き手がそれぞれの全力をぶつけて、5篇のドラゴン小説とその挿絵を書き上げているという、本当にただそれだけ。そのシンプルな構成こそが、この作品の神髄でもあり、ぼくが「究極の同人誌」だと述べる理由でもある。凝ったギミックではない、強い書き手と強い描き手、そしてその力をいかんなく発揮できる場をそろえれば、最大火力がこもった合同誌が出来上がるという、ただそれだけのシンプルな結果なのだ。けれど、そのシンプルな結果を出すことそのものが至難の業だというのは、ぼくのこのメモ帳を普段から読まれている皆さんにとっては既知の事実であろうと思う。だからこそ素晴らしいし、究極なのである。
そして、そのシンプルな結果を成立させるため、柊呉葉氏の各参加者に対する気配りを思わせるような、(一見豪快なようでいて)きめ細やかな装丁、そしてそれを可能にした編集の手腕が恐ろしい。経験上、あくまでぼくの経験上ではあるのだが、この作品群をひとめ読んで、この掲載順にしようとはなかなか思わない。確かに、並木陽氏の「暗黒竜フェルニゲシュ」(挿絵:咲氏)はぼくでも最後にするだろうと思うのだが、最初に凪野基氏の「末裔」(挿絵:まのい氏)を持ってくるという芸当は、一朝一夕ではできないのではないだろうか。この「末裔」、全体から見るとわりかしスタンダードなファンタジー世界観で、その情景やストーリーが「浪速のおはなし職人」の手腕によって非常に読みやすくかつ入り込みやすいという部分で、引き込み要素としての導入と思われるのだが、導入として最初に置くものとしては、ぼくの考える定石では飛瀬貴遥氏の「ラジスラフの人攫い竜」(挿絵:帝夢氏)の方がしっかりとした世界観、かつ、スタンダードな線を持ちつつ、比較的朗らかな作品に仕上がっているので、おそらくこの5作品を並べられた時、その掲載順として最初にこれを用いる編集担当は多いはずである。しかし、柊氏はこれを最後の前、4作品目に置いた。最後の前というのは、すなわち「暗黒竜フェルニゲシュ」の前である。この緩急のつけかたは、やはり長く同人活動をされ、その中で真摯に様々な同人誌と向き合いながら、創作の在り方を探ってこられた人間でなければ出せないものだろう。その編集手腕が、この同人誌をよりさらなる高みへ導いたことは確実である。
ちなみに、その柊氏も「ドライフ・ライフ」(挿絵:ZARI氏)で参加しているのだが、こちらもライトな世界観と高い構成力がひときわ異彩を放っており、書き手としての柊氏の筆致をうかがうことが出来る。参加した書き手の傾向を見てこの作品を書いたとするならば、おそらく非常にクレバーな方ではないかなと思うし、掲載順や装丁の妙をも勘案するとその可能性は高いのではないかと思う。
2作品目に位置している、このメモ帳でもおなじみつたゐ先生こと孤伏澤つたゐ氏の「胎生の竜」(挿絵:鉄子氏)は、この作品内でいうところの「ごうがふかいな枠」ではないかなと思う。まずタイトルからしてつたゐワールド爆誕って感じではあるが、最初から最後まで徹頭徹尾一文一語の狂いもなく全て間違いなくつたゐ先生だというのには驚愕もするし本当にすごい才能だと思う。恋愛担当とおっしゃっていたがそれもそのとおりだなあと思った。でもぼく的には間違いなくごうがふかいな担当だと思います。
で、さっきから内容に言及していなかった並木氏の「暗黒竜フェルニゲシュ」だが、これを最後に持ってくるのはもうなんというかそりゃそうなんだけどずる過ぎでは!?!?!?!?!?ずる過ぎ晋作では!?!?!??!?!!って死ぬほど思ったし事実8億回くらい死にましたんで!!!!!!!!!!!
並木氏のこの作品はもう、全体を通して非の打ちどころが存在しないというか、そもそも非の打ちどころを探させる気すら起きなくなるほどの、全編通しての圧倒的な美と執着の塊みたいなもので、これもこれでごうがふかいなではあるし、熱量でいえばつたゐ先生とほぼほぼ同格ではあるんですけど、ここまでやっちゃう!?!?!?!?無理では!?!?!?!?死人出ますよこれ!!?!?!?!?!ってずっと叫びながら読んでて、読んだ人がみんな墓に入っていく理由がわかった。まあわしは球体の生物なんでお墓とか必要ないですから!!!!!!!!!!!!!!
はっきり言うが、一次創作同人界隈で、この作品以上の合同誌は向こう5年は出てこないのではないだろうかと思うほどの圧倒的傑作にして究極の同人誌、すべての書き手の夢を形にしたというところがこの作品のごうがふかいなポイントであるわけで、つまりなにが言いたいかというと最高オブ最高すぎ晋作すぎやまこう市村正親松門左衛門ってことですよほんとに。いやほんと、読んでみてくれマジで、ナニコレ珍百景ですよ!「展覧会の絵」が一生リピート島倉千代子ですから!!!!!!!!!!ほんとに!!!!!!!!!!!!!!!
これを超える作品に携わってみたいものであるなあ、と思った。
というわけで、ギリギリではあるがテキレボ6シーズンを期間内に完走することができた。
とはいえ、実はまだ本チャンの記事を書き終わっていない。おれたちの戦いはこれからだ!
例のブツは明日朝ごろ公開予定にしたいと考えています。
拾い集めた嘘を小説に変えていく
どうもかーびぃです。
連チャンで書いていくのはどことなく変な気分になってくる。ランニングハイみたいな、自分の文章ばかり読んでしまった結果の自毒作用みたいな、そんな気味の悪い感じになる。
ぼくがすきなピロウズ、the pillowsの曲に「ファイティングポーズ」という曲がある。どれほど打たれようとも、負けが込んでいても、最後までファイティングポーズだけは構え続けるボクサー。その意地汚いほどに強い闘志と負けられないという矜持、それとは裏腹にもう戦いたくなくなっている身体。だけどファイティングポーズは構える。積み重なった、負債とも怨念とも、矜持ともいわせられない何かの得体のしれない圧力を背に、彼はファイティングポーズを構えるだけ、構える。
余談だが、ぼくがピロウズを好きだというと、リアルの知り合いにはたいていこの「ファイティングポーズ」が好きだと言って納得してもらっている。そんな感じの曲である。
「拾遺」著:齊藤
(通読性:15、宇宙感:25、残響度:25、嗜好:8、闇度:S 合計83点)
たしか、おかさんことオカワダアキナ氏のブースで委託頒布されていたものだったように思うのだが、表紙からして異様な雰囲気を醸し出している、簡素な同人誌があった。それがこの「拾遺」なのであるが、わずか24ページの短編集が、これほどまでに重たいものだったとはその時予想もしていなかった。A5版1~4ページの掌編のひとつひとつ、そのパラグラフもセンテンスも打ち込むような強さがあってとてもリリカルで複雑で、しかもこれらが有機的に結びついている作品集になっているというのが、なんというか同人誌の極致を見たような気がした。読み終わったとき、いちど、ぼくは文章を書く自信というものを一切喪失した。こんな書き手がまだまだ、きっと世の中に紛れ込んでいるんだ、そのなかでぼくは、何を書いても無意味なのではないか、そんな無気力が襲い掛かってきたのだ。
けれどこうしてぼくは記事を書いている。文フリ京都の新刊も、この作品と同じページ数で入稿した。ぼくはぼくにしか書けないものなんてないと思っているけれど、ぼくの立場で、ぼくが得た経験で、ぼくにしか書けないものは、確かに存在しているはずなのだ。どうしてだろう、同人界隈の書き手にぼくはこの作品を薦めたい。それはネガティブな感情というものを味わい尽くしてほしいという不幸の手紙的なものではなくて、どちらかといえばなんだろう、これを読むことでぼくはぼく自身の書き手としての姿を思い起こさせられた、そういう風に、書き手なりの感じ方を楽しむことが出来、それによって新たな作品を書き出すことが出来るような、そんな力があるのではないかと思っている。
この作品集は衝撃だった。ひとことで言うなら、もう衝撃としか言いようがない。この作品に出合わせてくれて、ありがとうと言いたい。作者の齊藤氏はもちろん、委託することによって引き合わせてくれた(たぶん)オカワダアキナさんにも。
1位作品、ここまでお読みの方にはそのタイトルが何かなんて聞かなくたってわかるかもしれない。この作品とは別の意味で、同人誌とは、創作同人とはということを教えてくれたあの究極の合同誌が登場する。こうごきたい。
出会い、別れ、出会いで1セット
どうもかーびぃです。
連チャンで記事を書き続けるというエクストリームスポーツをやろうとしている。控えめに言ってアホなのだが、自分で決めたのだから仕方がない。
さわやかさの裏で鳴っている寂寥感といえば、ぼくが思い起こすのは、イトーヨーカドーのテーマでおなじみの、タイマーズ版「デイ・ドリーム・ビリーヴァー」である。原曲はザ・モンキーズというグループのものだ。この原曲に、忌野清志郎は自身の想いを重ね合わせて、日本語カバーしたといわれている。ってさっき調べた。
「フリンジラ・モンテ・フリンジラ」著:佐々木海月(エウロパの海)
(通読性:22、宇宙感:20、残響度:20、嗜好:9、闇度:A 合計78点)
ということで、佐々木海月氏、史上初の3度目の記事化となった。ここまでで3作品が記事化された例はないばかりか、さらに言えば、3作品以上のシーズンレース登録作品がある書き手で、かつそれらがすべて記事化される例は今までなかった。ここで、佐々木海月氏は2017ステージシーズンレースにおいてのMVW(モストヴァリアブルライター)の座を名実ともに達成したといっても過言ではないと思う。2018ステージから導入する書き手レート制度においても、レート7を超えているのは咲祈氏と佐々木氏のみである。それほどまでに、氏の作風はぼくの嗜好とマッチしているのだ。
さて、この作品は、めちゃくちゃ簡潔に述べるのだとするなら「一期一会」といった趣のもので、過重労働に音を上げた主人公と一風変わった中学生コウの出会いと別れまでを描いた作品である。佐々木氏の作品の中では、どうだろう、ニュートラルというべきなのだろうか、その静寂性は保たれてはいるものの、ここまで紹介した2作品のような、空間全体の澄み切った部分というものはあえて描かれていない。登場人物の会話はどこかさっぱりしていて読みやすい。ぼくはこのような会話の方がすっぱりと中身に入っていけるのかもしれない。その点はもう少し研究する必要があるように思う。舞台となる地方都市の郊外の、四季を織り交ぜた情景が美しく彩られながら、やはり登場人物そのものの普遍性というか、そういったものにはしっかりと碇がおろされていて、そのコントラストが美しさを対比的に描き出しており、さらに言えば寂寥感のようなものを出しているのではないかなと思う。特に、最終部はぼくがここまで読んできた130冊の同人誌の中で、1、2を争うくらいの美しさだと思うくらい。
あと、鳥を軸にしている作品でもあるのだけれど、ぼくはそんなに鳥に詳しいわけでもないしあまり好きでもないので、そういう部分もあるよという紹介だけにしておこう。鳥散歩に参加するようなタイプの人は必読だろうし、別の部分でこの作品の美しさを知っているのだろうなと。
そういうわけでしまりがないんですけどそんな感じです。
2位に輝いたのは、完全なるダークホース、でもその素晴らしさは知る人ぞ知るあの作品です。
それはたとえば何かに似ているけれどもそれに形容はできなくて
どうもかーびぃです。
ということで、ようやくテキレボ6シーズン参加作品すべてを読み終わったので、ここに最後の選外まとめを書いておきたい。
「暁天の双星」著:泡野 瑤子(Our York Bar)
オリエンタルファンタジー。時代物の流れを取り入れている。序文はテキレボ6の公式アンソロジーに掲載されていたが、圧倒的な掴みの強さがあったのでそのまま新刊となって出たこの作品を買ってしまった。語られている歴史と真の歴史は異なるのだ、という歴史学の教授ターミ・ポアットの言葉から始まるあたりが、なんというか「ファイナルファンタジータクティクス」を彷彿とさせる感じがしていて個人的にはわくわくしていた。骨太な物語を比較的コンパクトに収めてきているというところが個人的つよいポイント。
「Cis1 冒険は授業のあとで」著:新島みのる(ひとひら、さらり)
ジュブナイルファンタジーとしてはかなり完成されている作品じゃないかなあと思う。ひとりの少女がほぼ異世界と同じくらい非常に遠くに飛ばされ、「スーパーチャレンジャー」という勇者的な役割を与えられ、同じ役割を与えられた少年少女と奮闘する物語、そのステージ1、といった感じ。序章の日常が非常にコントラストが強く出ている。どことなく宮部みゆきの「ブレイブ・ストーリー」を思わせるような構成。この物語はCis2、さらにその先へと続いているようで、そのCis2は「みんなのごうがふかいな展」参加作品であるのでこれから読む。楽しみだ。
「四季彩 ボリューム2 菓子」著:春夏冬(春夏冬)
春夏冬の2作目となる合同誌。見本誌だった最後の1冊を貰ってきており、ふせんがついている。そして合同誌なわけだけれどふせんがついていてよかったというか、よく言えば色彩豊かな小説群が収録されているなあ、と思うわけで。分量も個性も本当に様々なメンバーを抱えて活動するのは非常に大変だろうとなんとなく思う。個人的に好きなのはなんべんも述べている通りこのサークルの代表を務めている姫神雛稀氏の「イヴァンフォーレ理の七柱」シリーズである。今考えたんだけど最低でも合同誌が7冊出ることになっているというのはなかなかにすごい。そりゃたいへんだ。は4で止まっている。ぼくの周りで7冊も同じサークルが定期合同誌を出せているところはない*1(あるかもしれないけれど今思いつかない、という程度の意味)ので、7冊と言わず行けるところまで行って欲しいというのが正直なところである。
「踊る阿呆」著:オカワダアキナ(ザネリ)
おかさんの新刊、ということで手に入れた作品。そういえばアンソロの作品まだ読んでいなかったような気がする。おかさんの文体は本当になんというか引き込まれるような語り口がすごい。落語の様にフリがあって、オチがあって、みたいな感じで、文章そのものというよりは、もはや文体としてしっかりと個性を固めているというところが非常に面白いし、立体的な作品になっているのだなあと思う。冷静でエロティックで、それでいてパンク。なんかに似てるな、と思って気づいた。忌野清志郎だ。ということはおかさんはキング・オブ・文学なのか。なるほど。
「旅人は地圖を持たない」著:小町紗良(少女こなごなと愉快な道連れ)
少女こなごなといえばクイーンオブごうがふかいなでおなじみなわけなんですけれど、この作品は隅々まで最高にキマっているところがヤバイなあって思います。同人誌ってこう、装丁とか小説の文字フォントとかってどこかファッションセンスめいた美的感覚が出ちゃうじゃないですか。そういうものを全力で固めていった、小町氏が考える「この文章に合わせるのはこれだろ」っていうコーディネートをバリッバリのガッチガチにキメた感じのやつです。そこに一切の妥協の余地がないところがまたすごい。これもひとつのごうがふかいなではあるような気はするんですけど、まずはこの作品の同人誌としての完成度、これを皆さん読むことで感じていただきたい。個人誌、小説主体作品ということでいえば、2017ステージ最高クラスの完成度を誇る同人誌といっても過言ではないです。とにかく読め、そして感じろ。現場からは以上です。
「Last odyssey」著:孤伏澤つたゐ(ヨモツヘグイニナ)
テキレボ6シーズンの最後を飾ったわけで、これはあまぶんシーズン3位の「魚たちのH2O」の後日譚にあたるとのこと。共通の世界観で、前作のラスト特有の寂寥感を残したまま物語が続いていくスタイルになっている。その文体は、限りなく詩的で日本語の持つ冗長性を極限まで排した造りになっている。だけに、言葉を尽くされている前作とは対照的な部分があり、一文一文をかなり深く読み込んでいかなくてはならないと思った。しかしながらつたゐ先生がもつ滑らかな語り口はそのまま、というのがなんだかものすごいなと思う。これがいわゆるごうがふかいなのひとつの完成形なのかもしれない。
てなわけで、ギリギリで駆け抜けました。
上位3作品についての記事も今日中にアップしていければと思います。こうごきたい。